第6章・魔界のエージェント
戦闘が終わった後、大治郎達はセラッグを囲んでいた。この先、移動するにも不知火がいないとどこに向かうかわからないためだ。しかし、不知火はセラッグの体内にいるので、吐き出してもらわないといけなかった。
大「何をするのもまずは不知火を返してもらわないとこの先どうする事もできないぞ」
そういうと大治郎は、地面に伸びてるセラッグの脇腹に蹴りを入れる。
セ「随分とご挨拶な起こし方だな」
大「おとぎ話に出てくるお姫様のようなお目覚めが希望か?残念だがここには女王はいるが王子はいないぞ」
大治郎がソフィアをちらりと見るが、ソフィアが早くしろと言わんばかりに腕を組んでいる。
大「さて不知火を返してもらいたいのだが、ちゃんと生きているんだろうな?」
セ「もちろんだ。少し待ってろ」
触手を使って身を起こしたセラッグは、背中の方の触手から不知火を吐き出したのだが、不知火はピクリとも動かなかった。その光景を見た一行は、疑いの視線をセラッグに向ける。
晴「・・・・・・事情を説明してもらえるかしら?」
セ「大丈夫だ、この火狐は生きておる。ただ、これは漿液の効果で昏睡状態になっているだけだ。肺や胃の中の漿液がなくなれば目が覚める」
ソ「目が覚めるって何時になる事やら、それまでここでキャンプでもするしかないのかしら?」
セ「そこでだ。私はお前達に興味が出てきた。特別に我が領地での滞在を許そう。こんな所で喋っているよりもいいだろう。ぐうたら寝ているこの火狐を車にぶちこんで、さっさと向かおうではないか」
そう言うとセラッグは、触手で起用に車のドアを開けて不知火を放り込んだ。道案内はセラッグがしてくれるのだが、車には入らないので、屋根に乗る事になったのだが、
ミシャッ!!
チェ「ちょっと!車の屋根が下がってきたわよ!フレームも歪み始めているし。あなた!どんだけ重いのよ!」
セ「マンドラ族は全体的に体重が重い方にはる部族なのだ。ほら、早く出発しないとタイヤがパンクするかもしれないぞ」
そう言われて車を前進させたのだが、押さえつけられている力が働いているのか加速がとても悪い。その事から目的地に着く前に車が壊れるのではないかと非難の声があがる始末だ。しかし、領地とやらは近くであったため、車は壊れずに済んだ。
「セラッグ様!この者ども達は!?」
セ「私の客人だ。失礼が無いようにな。車で来れるのはここまでだ。そこの駐車場に置いてきれ。私は一足先に屋敷に戻ってこの火狐を寝かしたりさせるから、案内の者について屋敷へ来てくれ」
セラッグは車から飛び降り、不知火を小脇に抱えてそそくさと街の奥へ向かっていった。案内の者について街に入ったが、街の入り口は観光客用のお土産屋等が集中しているため、かなりにぎわっている。一方、屋敷に近づけば近づくほど、観光客で賑わう喧騒は小さくなっていた。
セ「さて、ディナーの用意をさせるのだが、肉は牛でいいかな?」
屋敷に入るなり、セラッグがこちらを見ていきなり尋ねてきた。
晴「何で私の方を見て言うのよ!?」
セ「いや君が牛の亜人系の血筋だから、牛を食べるのに抵抗があるかと思ってな」
晴「亜人と動物を一緒にしないでもらいたいわ」
セ「ハハハ、そうかそれなら問題ない。こうして客人をもてなすのは久しぶりでな。あの火狐もディナーまでには目覚めるだろう。それまで自由にくつろいでくれ。街に出るなら案内をつけよう。その方が動きやすいだろう」
その後、大治郎達は再び街へ行く事となった。特に目を光らせていたのは晴海であった。何か珍しい物があれば、持ち帰って商売のネタにするつもりなのだろう。そんな感じで時間は過ぎ去り、ディナーの時間となり案内係に食堂に通された。そこには意識を取り戻した不知火も座っていた。
セ「おお、待っていたぞ。さあさあ、席について食べようじゃないか」
テーブルを見ると、普段自分達が食べているような料理が並んでいた。街をうろついていた時に、どのような料理が出るのか話していたが、気に病むような物はなかったので一同はひとまず安心した。
セ「街の様子はどうだったかな?この鬱蒼とした森の中にあるが、それなりににぎやかだっただろう?」
晴「他種族に対して排他的と聞いていたけど、商店が並んでいる所は活気があったわ」
セ「排他的か。確かに私達は他種族をあまり信用していない。かつて我々は、人間や魔界に住んでいる種族達に万病の秘薬として、大勢の同胞達が狩られた過去があるのだ。そのおかげで我々はマンドラ族と呼ばれるまで各地を転々としなが、隠れながら生きてきたのだ。この街を回って気づいただろう?我々以外の部族が入れる所は街の入り口付近のエリアだけだったと」
大「・・・・・・・・・」
セ「そのエリアで騒動が起これば、すぐさま、衛兵がやってきてボコボコにされるさ。それに今の時代に同胞達を狩ろうとするのは魔界の法律で禁じられている。世の中バランスが大事だからな。商店を出している同胞は、他種族にできる限り寛容な者だ。こちらからへんなトラブルを起こされても困るからその辺りは厳しくしている。でも、君達が聞きたいのはそれじゃないんだろう?一体、どうやって君達がここを通る事を知ったかなんじゃないかな?」
ソ「そうそれよ。誰かが情報を流さないと罠をはる事もできなかったはずよ」
セ「その通りだ。ある人物からタレコミがあったんだ。火狐が君達の情報を私達に流したのは“コードレス”だ。不知火は知っているだろう?」
不「“コードレス”!あの人が!」
先に断っておくがここでの“コードレス”は無線の事ではない。とある人物の事を指している。
ソ「そのコードレスって誰よ」
不「諜報活動から暗殺まで何でもこなせて、困難な任務ですら問題なく完遂する魔界一のエージェントです」
不知火によるとそのコードレスという人物は魔女と九尾の魔義師に仕えるエージェントである事だ。情報収集から工作活動だけでなく、戦闘も得意としており幾度となく、窮地を乗り越えてきたという。彼女がいつから魔女に仕え始めたのかといった素性等はほとんどわからない状態であり、しかも本当の彼女の名前を知っているのはその2人だけらしい。ちなみに九尾の魔義師に仕えているとは言っても、あくまでも補佐的な意味合いらしい。
セ「そして、そいつが山城地方の京の都でお前さん達を待っているといった所だ。前に1回戦った事があるがあいつは強いぞ。あんたみたいに懐に飛び込んでくる事すら厭わなかったな。私が言えるのはここまでだ。ささ、難しい話はここまでにして料理を堪能してくれ」
セラッグは手をパンパンと叩くと奥から、メイドと思われるマンドラ族がお酒等の飲み物を持って現れた。かなり高級なビンテージ物らしく、それを気に入ったソフィアは1人ガブガブと飲んでいた。
続く
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