東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第2章・白昼の吸血鬼:その4
「この地図を見て欲しい。これはチェリーが調べてくれた一連の騒動を巻き起こしている連中が出入りしている可能性がある場所を示している」
大治郎のオフィスの壁に映し出された地図には2箇所の赤丸がついていた。
「それぞれ富士山から少し離れた北東と南東の所だけど、そこに何があるの?」
「晴海の疑問にはこの地図を拡大すればわかるだろう」
大治郎が端末を操作すると地図が拡大される。
「これって鉄道の線路の所にあるということかしら?しかも、地図のマークを見るとトンネルの入り口部分のようだわ」
「その通り。反応があった場所は鉄道のトンネルだ。さて、2箇所あるという事は、両方あるいはどちらか一方の地点を調査しなければならないが、今回は南側の小田原を調査する事にした。高尾側は、場所が場所のため今回の騒動の調査には適さないと判断した」
高尾。イースト・ペイジング王国の中心からほぼ真西に位置する国境の1つだ。そこから西は広大な森林地帯と山が広がり、精霊達の住処となっている。この森林地帯は超高度文明時代の住居やハイウェイがそのまま森に飲み込まれた光景が広がり、自然の力を目の当たりにできる。その影響で交通手段は鉄道のみという移動には厳しい所となっている。さらに、精霊達は多種族との接触をできるだけ避けており、精霊達の住処には行くには事前の申請が必要である。当然、精霊達も今回の騒動については警戒しており、たとえ自総研といえども申請も無しに、勝手に調査を行えば、トラブルは避けられない。
「そこで今回の騒動に関わっている人物が現れるまで、近くで見張りを続ける。現れたら直ちに捕まえて重要参考人としてその場で取調べを行う。出発は明日の朝だ」
翌日、自総研を出発した大治郎とチェリーは、昨日説明したポイント付近でキャンプを設営していた。ソフィアはこのキャンプで合流する手筈になっている。
「大治郎様、晴海さんはアレでよかったのですか?」
「ああ、いいんだ。今回の相手はクリーチャーではない可能性が濃厚だ。剣術の才能だけではカバーしきれないはずだからな」
意気揚々とついて行く意思を見せていた晴海に対して、大治郎は昨日条件を出していた。取調べが終わり、先に進む事になった時にすぐに来れない場合は置いていくという内容だ。晴海は学生だ。今は学業に専念にしていた方がいい。
「ああ、いたいた。駅からここまで来るのはしんどかったわ。色々、持ってきたわよ」
ソフィアが現れ、リュックの中から色々と取り出してくる。食べ物、遊び道具、お酒。どこから見てもキャンプを満喫するためのアイテムしか入ってない。
「それで、ここで何日間張っているつもり?一週間くらいかしら?」
「そうはならないだろう。チェリーの調べでは、平均2日の間隔で観測されている事がわかっている。もしかしたら、キャンプの設営中に反応があるかもしれない」
「平均2日!結構短いわね。でも、平均でしょ?最大で何日だったの?」
「6日ですよ」
チェリーが即答する。しかし、この日はテントが出来てからも、夜が更けようとも反応はあらわれなかった。
続く
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