東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第2章・白昼の吸血鬼:その1
晩秋。最近、妙な事件が日本各地で頻発していた。空を飛ぶ変人に襲われたり、女性に道を尋ねたらいつの間にかフラフラな状態で家にいたり、ヒトを案内していたら森の中にいたなど不可解な事ばかりだ。中にはクリーチャーと違わぬ異様な姿を目撃したら、いつのまにか病院にいた等、怪我人が出る事例も発生していた。その他には変な小人の酔っ払いに絡まれたなんて話も出たが、前の話に比べれば可愛い物だ。だが、そんなヒトが襲われる事態が発生しているの中、未だに死亡者が出ていないのが不幸中の幸いなのかもしれない。しかし、それはそれでおかしな話だ。
「怪我人の特徴を集めた所、どのケースも急所には当たっていないそうだ。これをどう見るかだ」
自総研の一室にあるオフィスで大治郎が集められた資料を見ていた。
「見た限りプロの犯行には違いないわね。しかし、一見クリーチャーみたいな姿をしているのを見たという話も気になるわね。仮にクリーチャーだとしても組織的に動く事はまずないでしょ?」
「今まで出会ったクリーチャーはどれも単独行動だったな。もし、クリーチャーを動かせるなら指揮官のような存在が必要だ」
大治郎や紗江が今まで戦ったクリーチャーはどれも単独であった。元々は生物兵器であるため、操る事が出来れば、絶大な軍事力を手に入れたも同然であるが、そんな話は聞いた事がない上に仮にあったとしても、正体も身元も不明なクリーチャーが多く集まっているという不審な情報が瞬く間に集まるだろう。しかし、そう言った目撃情報も無い上に、正式な依頼も届いていないため、自総研内での調査は本腰が入っていない状態となっていた。
数日後――
「当局の捜査状況ではカバーできない?それは前から囁かれていた人員不足や精霊術師の育成が追いつかなかったのか?」
『いきなり痛い所をついてくるわね。たしかにそれの影響もあるけど、ある写真が出てきたから、自総研に任せたほうがいいという声も出てきたのよ。そっちに送るわ』
クラル姫との電話で大治郎は話していた内容は例の頻発している事件についてだ。わかりやすくまとめると、イースト・ペイジング王国の警察当局の捜査力だけでは対応しきれないので自総研に任せたいという事だ。その中で何やら手がかりになりそうな物があるらしい。
「・・・成程。たしかにこれは手がかりになりそうだな。よく見つけ出したな」
クラル姫から送られてきた画像データを見ると、ビルが立ち並ぶ夜景に映っている月に人影らしき物が映っており、その部分を鮮明に拡大した画像データにはしっかりとヒトが浮かんでいるのが映っている。
『天気予報で流れるお天気カメラの映像をたまたま見ていた捜査員が偶然見つけたそうよ。ね?生身のヒトがこの高度まで維持できる風属性の精霊術を使えるには中々いないわよ。そう考えると、この一連の騒動に関わっている可能性が非常に高いわ』
「たしかに、この高度まで身体を飛ばすのは流石に自分達でも無理だ。精霊術、もしくは何かの超能力かもしれないな。ただ――」
『ただ?』
「紗江が体調不良を起こしているんだ。魔力の高まりとかは陰陽術が1番わかりやすいんだが、今はそれができない。他の方法を当たってみるが、少し時間がかかるのは了承して欲しい」
『ええ、問題ないわ。それにあなた達にお願いするのはもう1つ別の理由があるの?もし、映っている人物が今回の騒動に関係しているのであれば、その理由を探って欲しいの。ただ、組織の力を示すだけならいいのだけど、知らず知らずに私達がこの人物が所属する組織にの何かしらに手を出していたと場合、政治の問題にも発展するからよ』
「たしかにその部分は気にする必要があるな。相手方の目的が明確になっていない状態でこちらから下手に動くと口実を与える事になってしまうからな。まずは、出所を突き止めて手頃な人物から情報を聞き出すかな」
『情報の聞き出し方はそちらに任せるわ』
こうして自総研が本腰を入れる事態となった。紗江が動けない状態でどうやって出所を突き止めるかを大治郎は考え始めるのであった。
続く
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