東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第1章・機巧少女:その9
帰りの列車の中で紗江はグロッキーになっていた。勝浦のお店でつい調子にのってしまい飲みすぎてしまったのだ。一方で、同じくらい飲んでいたチェリーはケロリとしていた。
「指定席が取れて良かったわ。この状態で新高崎まで立つのは結構シンドイわ」
駅で買った水を飲み干した紗江はチェリーの顔を見る。
「あんだけ飲んでたのに、大丈夫なの?」
「うーん。酔っている感覚は少しくらいですね」
組み込まれている機械によってアルコールの影響を受けにくくなっているのかと紗江は思い、それはそれで便利だなと考えた。紗江が酔っ払う事以外で体調を崩すといえば、変な物を食べたり、風邪をひいたり、陰陽術を影響を受けるくらいだ。
「ところで紗江様、どうして私を自総研に受け入れてくれたのですか?」
その話を振られて紗江は少し困った。明確な言葉が思い浮かばないからだ。しかし、このまま黙っておくわけにはいかなかった。
「そうねえ、うまくは言えないけど、似た者同士・・・だからかしらね」
「似た者同士ですか」
「そう。自総研には他に行き場がない存在の人達が多くいるの」
「行き場のない人達ですか?見た感じそんな感じはしませんでしたが」
「クリーチャーと聞いた事はあるでしょ?自総研にはそういう人達もいるの」
クリーチャーと聞いてチェリーは思い出した。確かに普通の人間とは違った異形の人達がいた。しかし、その人達は自分が自総研に来た事を、新たな仲間として迎え入れてくれた。
「彼らはもともとは過去の戦争において生物兵器と呼ばれる存在だったのは聞いたでしょ?その戦争が終わった後、作った人達の予想を超えて自然繁殖してしまったのよ。本来は繁殖できないように遺伝子を弄られていたけど、極限の状況におかれて進化て、繁殖能力を身につけたと考えられてるのが一般的ね。たしかに自然には、性転換する生き物がいるから不思議じゃないわ。自総研にいるクリーチャーは皆、これらの子孫ね」
「自総研には昔、生物兵器があったのですか?」
「ないわ。自総研ができたのは戦争が終わってからしばらく後になってからよ。自総研に来るクリチャー達は皆、言葉を理解できるレベルで産まれてきたのがほとんどよ。皆、自我が目覚めた時、頭を悩ますのよ。ここはどこなのか?自分は何なのか?湧き上がる破壊衝動に呑まれて暴れたりするの。街で暴れたクリーチャーはほとんどその場で処理されてしまうけど、113年程前から局長の砲身で、戦いを経て大人しくなったクリーチャー達を預かるようになったの」
「預かったクリーチャー達はずっと大人しくしているんですか?」
「暴れなくなった個体もいるけど、基本的には生物兵器だから破壊衝動を抑えられず暴れだす事もあるわ。その時は私達が相手になって叩き伏せるの。そうすれば落ち着きを取り戻すものとわかっているわ」
現に、自総研では時々、クリーチャーが暴れる事があるが、表に出ないのは他のクリーチャー同士によりに連絡網の構築により、兆候が見られたらすぐに大治郎達に伝わり、カウンセリングや実戦を交えて解消させている。
「このレベルのクリーチャー達が自総研の事を知ったら、命がけでやってくるの。ヒトに見つかったら通報されて排除されてしまう事も理解して、必死に姿を隠して来るのよ。海を渡ってくるときは船に忍び込んで息を潜めたりしてね。皆、自分自身に悩んでる。自分は何なのか。何のために存在しているかとかね」
いくら自総研に辿り着いたとしても、ここでは社会に馴染む為、普通のヒトと同じく自総研の仕事をしていく。もちろん大抵のクリーチャー達はそれぞれの個性をいかして作業を行うが、中にはそのような生き方に馴染む事ができず、自総研から出て行き、街で暴れてしまう。その場合は処理されてしまうが、今まで紗江や大治郎がそういったクリーチャーを退治してきたが、自総研で生活した影響か物を壊したりするがヒトに人的被害を与えず、2人を連れて来るように呼びかけるという。この場合のクリーチャーが戦って死ぬ事を望み、自総研で生活した事と戦ってくれた事に感謝して生涯を閉じるのである。自総研にいる他のクリーチャーは、2人に討ち取られた事は幸運であると考えるようになっている。
「・・・私や兄さんも同じようなものなのかもね」
その言葉を聞いて、チェリーはハッとした。チェリーも紗江も他のヒトとは違うのだ。紗江はずっと昔から地球にいる上に戦闘に関しては圧倒的な強さを保持している。チェリーは機械との融合体で普通のヒトとは違った感覚を持っている。人の姿をしていなかったらクリーチャーと呼ばれてもおかしくない。
紗江も大治郎も正確に言えば地球出身ではない。超高度文明崩壊後の戦争終了後に地球に辿り着いた宇宙船に乗っていたのだ。宇宙船に乗っていたのは紗江と大治郎の2人だけで、その理由も地球に飛ばされた理由はサッパリ不明であった。寿命も地球のヒト達と違い、あきらかに長寿である。知り合ったヒトが年を取ってこの世から去っていくのを幾度となく体験していった。地球に来た時は、子供の姿だったが10年くらいで今の姿になって、時間が止まったかのように続いている。故郷がもう無い事は2人とも察している。今は自総研が故郷だ。
「さてと――」
紗江が袋からガサガサと缶ビールを取り出す。
「ま、まだ呑むんですか?」
「そうよ。休憩は終わり♪。特急列車で飲むビールは格別よ。チェリーちゃんの分とおつまみも買ってあるわ」
そういうと500mlビールの6本セットとおつまみをテーブルにおいた。
「終点についたら、チェリーちゃんに担いでもらおうかな~?」
「そうなる前に飲むのをやめてくださいね」
湿っぽい話はこれで終わりになり、ビールを飲む2人を乗せて、夜の闇を切り裂きながら特急列車は自総研がある街へと走っていった。
第二章へ続く
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