東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第2章・白昼の吸血鬼:その3
「空間の歪みのような物が2箇所確認できました。2箇所とも出現時間がとても短いため、出入りに使用している可能性が高いです」
先日、千歳から大治郎が調査に行き詰っている事を聞かされたチェリーは張り切ってこの調査に協力を申し入れてきたのだった。
「2箇所にしぼれたのか。それにしても早いな」
「はい。観測用の人工衛星が軌道上にあると聞いたので、ハッキングして使用しました」
「何だって衛星をハッキング!?」
チェリーからその言葉を聞いて、大治郎は驚愕するしかなかった。超高度文明崩壊時に現れた巨大隕石の所為で、宇宙ステーションを始め、多くの人工衛星も破壊されてしまった。現在の宇宙に関する技術はせいぜいロケットを打ち上げるくらいしかなく、指で数える程度の観測用人工衛星が地球を周回している程度である。もちろん、その人工衛星の技術は国家機密レベルである。それにハッキングした事がバレたら、イースト・ペイジング王国、つまりはクラル姫から怒られるのは必然だ。
「痕跡は残さなかっただろうな」
「私の能力なら問題ありません。大丈夫です。信じてください」
どこからそのような自信が出てくるのかと大治郎は思っていた。コンピューターと人間の融合とも言える改造手術を施した人物は、恐ろしい技能レベルを持つ科学者なのだろう。そして、そのような科学者が存在していた超高度文明時代の人間である事を改めて思い知らされたのであった。
「あー、ムカツク!」
自総研の大治郎達のオフィスで、さも、いつもいるような感じでソフィアが愚痴を零していた。何でも、収穫した穀物が保管庫から丸ごと盗まれてしまったそうだ。
「サウザント・リーフ王国の穀物は、このカントー地方全域に流通しているはずよね。そうしたら、スーパーに並ぶ生鮮食品の価格にも影響が出てるわね」
同じく、さも、いつもいるような感じで晴海が穀物盗難の影響を話す。東雲グループ先代会長の忘れ形見という立場の彼女は、英才教育のおかげで初等教育学校の6学年目でありながら、経済や流通事情には強い。
ソフィアは春のクラル姫誘拐騒動後、晴海は夏の騒乱以降、頻繁に自総研へ出入りするようになった。大治郎達への依頼料という多額の借金を背負っていたソフィアは、秋の初めに突然、全額を支払ったのだ。大治郎と紗江は、経済再建中の自国の税金を使い込んだ物かと疑ったが、そうではなく、南海の海域で宝探しをしていた際、海賊団と遭遇し、その海賊団からお宝を強奪してきて得たお金だそうだ。一方、晴海はあーだーこうだと五月蠅いお目付け役が多い実家から頻繁に抜け出し、自総研で宿題等を持ち込んだりしている。
「というのもなんだけど、物資の盗難なら東雲グループの倉庫でも起きてるわ。相変わらず犯行グループはわからずじまい。正直、お手上げよ」
「それでね私の予想だと、穀物を盗んだのは最近起きている襲撃事件が絡んでいると思うの」
「まさかとは思うが、今回の件に首を突っ込む気じゃないだろうな?今回はクリーチャーや傭兵相手とは明らかに違うぞ」
「だから何だというの?大人しく、問題が解決されるのを指をくわえて待ってろというの?自国が被害を受けたのに黙っていたら、臣民に示しがつかないわよ」
「月島、聞いてるわよね。この件、東雲グループも一枚噛むわよ。・・・え?危ないからやめろって?何を言っているの?あなたも行くのよ。いい?これが成功すれば新しいビジネスチャンスがおきるわよ。どこの企業よりも早く、東雲グループが一番乗りでね。私の事を快く思っていない株主連中も大人しくなるでしょうね」
一連のやり取りの後、2人は大治郎にしてやったりという顔をした。
「・・・自分の身は自分で守ってくれよ」
不本意だが、紗江が体調不良で動けない現在、少しでも戦力になると考えるとまんざらではなかった。
続く
【登場人物紹介・その5】
・ソフィア・リーフ・サウザン
・性別:女性
・職業:サウザント・リーフ王国女王
・誕生日:7月20日
クラル姫が治めるイースト・ペイジング王国の東側に隣接しているサウザント・リーフ王国の女王様。
国政は腹違いの弟であるカズサに任せている。春先に発生したクラル姫誘拐騒動を機に菊川兄妹と知り合って以来、自総研に出入りするようになり、クリーチャー退治の仕事等を2人に変わって持っていったりしている。クラル姫誘拐騒動の際、2人を動かしたとして多大な依頼料を抱えるハメになったが、今回の騒動で自総研が本格的に動く頃より少し前に、南海の海域で海賊団と一悶着した結果で獲得した財宝を元にして依頼料を全て完済した。戦闘スタイルは先祖代々伝わる格闘術による徒手空拳。
【登場人物紹介・その6】
・氏名:東雲 晴海(シノノメ ハルミ)
・性別:女性
・職業:初等教育学校6年生
・誕生日:3月30日
日本を始めとして世界に名だたる東雲グループの先代会長の忘れ形見であるお嬢様。
グループの潤沢な資金を元手に、菊川兄妹(+α)賞金首騒動もとい菊川兄妹に勝てたら賞金190億円という市民や傭兵やらを巻き込んだ大乱闘を夏に引き起こした。性格は強引でわがままな所もあるが、将来は東雲グループを背負っていく自覚も備わっている。英才教育を受けていたため、経済に関する知識は初等教育学校6年生の時点でズバ抜けている(ただし、友達は数えるくらいしかいない)。
家宝の刀を自総研にくる時はいつも持ち歩いている。晴海の背よりも長い赤い刀身が特徴。兄妹とあった時は平凡な長刀であったが、ある時を境に突然このような状態になった。(本人曰く、不思議な夢を見たとの事)
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