東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第1章・機巧少女:その7
「うーん。すぐには慣れませんね。このスリットの高さには」
チェリーが街を歩きながら、青海にコーディネイトしてもらった服の感想を述べる。あれからいくつかの服を試着したが、デザインや今の季節にあった物ではなかった。挙句の果てに、“これは服なのか?”と目を疑うような着せられたため、着物をベースにした服に決まったのであった。青海は夏のアレの件や紗江と大治郎に出会った事により、孫である晴海が色々変わったとかいう理由でタダでいいと言われたが、後でどんな事を言われるかわからないので、しっかりと料金を払った。(それでもいくらかの金額は、勝手に割り引かれてしまったが・・・・・・)
「私の服は買ったので、次はどこに行きますか?それとも、自総研に戻りますか?」
「うーうん。一杯引っ掛けて帰りましょう。あなた・・・お酒は飲める・・・よね?」
「お酒ですか?多分、飲んでたと思いますよ」
「じゃあ、どれくらい飲めるか試してあげるわ(年齢を考えたけど5,000歳はいってるから問題ないわね)」
2人は鉄道の駅に向かいながら他愛のない会話を続けた。
「あの建物は国技館でしょうか。この駅の位置とあの建物の位置は覚えがあります」
ボースカントリーズ駅に降り立ったチェリーが言った。彼女は頭の奥底に眠っている記憶の片隅に触れているのだろう。ここに2人が来たのは、サウザント・リーフ王国の勝浦がパブを開いたという話を聞いたからだ。何でも開店にはソフィアの力が働いており、中の料理人は王城務めレベルを送り込んでいるため、料理のレベルは3つ星以上は確定ともっぱらの噂である。2人が到着した時点で、店内はすでに混雑しているが、見知った顔に気づくのは難しくなかった。
「ビールを飲むにはまだ早い年頃じゃないかしら?」
「ご挨拶ね。これはただのオレンジジュースよ。私がビールを飲めるのは15歳になってから」
紗江に声をかけられたベレー帽を被った少女が反論する。よく見ると服装は初等教育学校の制服であり、パブには不釣りあいだ。
「お嬢様。紗江様はお嬢様の格好がここでは合わないと仰られているのです」
付き添いと思われる紳士服を来た男性が少女に声をかける。少女は東雲 晴海。男性は晴海の執事の月島 辰巳である。晴海は青海の孫娘であり、東雲グループの先代会長の忘れ形見でもある本物のお嬢様である。夏にイースト・ペイジング王国の首都で大治郎達に賞金をかけた市民参加型の大騒動を引き起こしたのであった。それがきっかけで大治郎や紗江に知り合い、自総研に度々入り浸るようになった。
「さっきからゴチャゴチャ五月蝿い執事ね!マスター!この朴念仁にぴったりのストロングエールを1つ持ってきて!」
「お嬢様!それでは帰りの車の運転が!」
「代行を呼べば済む話でしょ!私がここでオレンジジュースを飲むのが不釣りあいなら、代わりにあなたがビールを飲めばいいのよ!」
「相変わらず執事を振り回してるわね」
隣のテーブルに腰を落としながら紗江は呟いた。
「いえ、あなた方とお会いしてからお嬢様は変わりましたよ。学校でご友人もできたり、家庭教師を電撃で痺れさせて抜け出したりしているんですよ。ところでそちらの方は?」
「この子はチェリーよ。実はかくかくしかじかで――」
紗江がチェリーの事について話す。
「成程。それはとても難儀でしたね。でも、紗江様達の所にいられるようになったのは幸運ですね」
「その服・・・。おばあ様がこの間ファションショー向けにデザイナーに発注していた服じゃない。もらった時に写真を撮られなかった?」
「そういえば、何枚か撮られていたわね。理由はわからないわ」
「おそらく、ファションショーで反応を見るよりも、さっさと商社に売り込んだ方がいいと思ったのね。所で、私の刀について何かわかった?」
晴海が壁に立てかけている刀・ミチザネに指を向ける。晴海は夏のアレの後、大治郎に頼みこんで剣の稽古をつけてもらった。クリーチャーが出没する自総研が管理する森の中でキャンプはかなり過酷だったらしく、自総研に戻ってから迎えが来るまで事務室の片隅で眠り込んでしまったのだ。そして目を覚ますと刀が変わっていたのだ。眠り込むまではたしかに何の変哲もない長刀の刀身であったが、目を覚ますと刀身が少し伸びたうえに紅色に染まっていたのだ。当初は、誰かに摩り替えられたのではないかと思われたが、晴海自身が見た夢の中でミチザネを鍛えた物と全くそっくりであったため、自総研で保管している超高度文明時代の遺物が何かしらの影響を及ぼしたのではないかと色々調べたが、結局手がかりはなかったのであった。
続く
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