東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第1章・機巧少女:その3
「部屋の頑丈さと木の根にずっと守られていたみたいだな。だが、その女性が本当にヒトであるかの保障はない。木の根に天井を破られても部屋の施設は死なずに機能していたんだ。そう考えると決戦兵器の可能性もあるな」
木の根が施設の天井を突き破ったのにも関わらず、部屋の施設は生きていたので明らかにこのカプセルは何か特殊な意味があるのだろう。大治郎の言葉を聞いて、研究者達は一斉にカプセルから離れる。歴史的な発見かもしれないが、カプセルの中の女性がヒトである保障は今は無い。もし、人型生物兵器だったら誰かしら犠牲になるだろう。
「決戦兵器ねぇ~。用心するのは良い心掛けだけど、私には普通のヒトのように見えるわね。あ、あら?」
紗江がペタペタとカプセルを触っていたら、起動スイッチを押してしまったのか、カプセルから水が漏れ出てきたのだ。床一面を水浸しになった後、音もなくカプセルが開いたのであった。
「目を覚まさないな。普通、こういうものはカプセルが開くと同時に目を開けるものだと思っていたのだが」
「漫画やアニメじゃないんだから。ヒトは朝起きるだけでも辛いのに、コールドスリープとかで気が遠くなるほど寝てたら、二度寝三度寝なんか当たり前よ、きっと」
二度寝三度寝してしまうのは紗江だけだと大治郎は思うが、この女性が目覚めない限り、どうする事もできない。慌てている研究者をよそに寝ている女性を突いている。それが功を奏したのか何と目を覚ましたのだ。
「おはよう」
紗江は目覚めた女性に向かって悪びれもなく言った。何千年も眠っていた人物が目を覚まして何が起きるかはわからない空気の中、誰もが“どうしよう”と考え、止まっていた中での出来事だった。
「とりあえず俺達はこの子を連れて自総研に戻るから」
大治郎と紗江はカプセルから目覚めた女性と供に自総研に戻る事を研究者達に告げた。この女性は研究者にとって超高度文明の技術に関しての重要な手掛かりであるが、そういった施設に行かせるよりは自総研で預かった方がよいと判断したためである。この女性に目が覚めてから自分の事を聞いてみると自分の名前すら覚えていないという事なのだ。
「あなたが今、覚えている事だけどどんなのが思いつくの?」
「んー?最後に覚えているのは、隕石が複数に分かれて、起動エレベーターとかを壊しながら衝突した事ですね」
「それから、私達に会うまでの記憶は覚えていないのね」
女性は首を縦にふった。超高度文明崩壊の引き金を引いた隕石の衝突の事までは覚えているが、そこから先の事についてと自分の名前等、肝心な部分の記憶が欠落している事がわかった。
「記憶喪失なのはわかったが、このままでは何と呼べばいいのかわからないままだと、不便だな」
「じゃあ、私が名前をつけてあげましょう」
紗江が目を輝かせながら意気揚々と声をあげる。紗江は自総研で面倒を見る事になったクリーチャーにいつも名前をつけているので、こういうのは得意であった。色々と案が出たが、最終的に桜の木の下に埋まっていたという理由で“チェリー・ブロッサム”という名前に決まった。
続く
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