東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第1章・機巧少女:その8
「あーあ。結局、ミチザネがこうなった原因はわからずじまいか」
「でも、重さも増えたのに振り続けられているからいいじゃない」
「そう。例の夢の中で散々振り回したわ。だから、納得がいかないのよ。本当に夢だったのかしら?それとも――」
何かを言いかけた晴海が大きく切ったハンバーグを一口でほおばった。自分の獲物が突然、姿を変えていたら誰だって納得がいかないのは不思議な事ではない。
「何やら楽しそうな話をしてるじゃない。マルール12、持ってきたわよ」
そう言いつつビールの入ったグラスをテーブルに女性が置いた。その人物には紗江は見覚えがあった。いや、忘れたくても忘れれない。
「ソフィア様、今日はここにおいででしたか」
「あら、私がこの国にいる時は基本的に、ここに滞在しているのよ」
「一国の女王様が、パブで軽々しくそんなこといっていいのかしら?」
月島がソフィアの置いたビールを受け取る。紗江はソフィアの発言にツッコミを入れた。
ソフィア・リーフ・サウザン。それが彼女で名前であり、紗江達がいるイースト・ペイジング王国の東隣に位置するサウザント・リーフ王国の女王を務めている。春先にイースト・ペイジング王国の国家元首であるクラル姫を巻き込んだ誘拐疑惑騒動を引き起こしており、その騒動の解決に大治郎と紗江が出張ったのが馴れ初めであった。しかし、ソフィアは本来の目的とは別に、王国軍の実力を確かめるために2人を呼び寄せた事が発覚し、利用料及び誘拐疑惑の迷惑料として多大な借金を背負ってしまったのだ。ただ、イースト・ペイジング王国とサウザント・リーフ王国の間で経済協力に関する条約が結ばれたので、本来の目的は達成された。そんな多大な借金を背負ったソフィアであったが、先日、自総研に来た時に全額支払ったのだ。居合わせた大治郎や局長は、どこかで銀行強盗もしくは資金不足で悩んでいる国庫から無理やり持ってきたのではないかと疑ったが、そういうお金ではないと言い切られてしまった。一方、サウザント・リーフ王国の政は腹違いの弟であるカズサ・リーフ・サウザンに全て任せており、自分は外回りの方が合っていると公言し、自総研にしょっちゅう現れてはクリーチャー退治の仕事を代わりに引き受けていくのであった。その時の活動拠点はこのパブの2階の自室であり、店が開いている時はいつも呑んでいるそうだ。そんなこんなで、一国の女王様に気軽に合えるお店という噂が広がり、色んな人が訪れている。フランクな彼女を見て、喜んだり、意表をつかれた顔をするなど様々な反応があるそうだ。
「それで、彼女がさっき話していた遺跡で見つかった人ね。さっき聞いたと思うけど、私はソフィア。隣国のサウザント・リーフ王国の女王をやってるわ」
「チェリーです。どうかよろしくお願いします」
「自総研に住んでるんでしょ?じゃあ、そのうちそこで会うかもしれないわね。その時はよろしくね」
女王様とは思えないフランクな対応に面食らうチェリーであったが、
「ソフィアがフランクなのは、この店にいる時と私達しか周りにいない時くらいよ。後はそれなりに女王の風格を出すわよ」
「好きで女王になったわけじゃないからね。気楽に出来る時にそうしないと息が詰まるわ」
「サウザント・リーフ王国・・・。今、調べて見ましたが、私が覚えている範囲では千葉と呼ばれていた場所と同じ所にありますね」
「チバ?たしかに大戦前はそう呼ばれていたとか、そういう事を何かで見た事あるわ。・・・・・・・って、あなたどうやって調べたのよ?」
「チェリーにはネットワークにいつでもどこでもアクセスできる能力があるのよ。それでも頭の中でね」
「何よソレ。新しい精霊術か何かかしら?」
「精霊術じゃない事はたしかね。チェリーは精霊術が失われていた時代の生まれだから。差し詰め、人間コンピューターと言えば良いかしら?」
「それだとしたら、ロボット何じゃないの?」
「うーうん。チェリーは有機体の身体よ、私達と同じね。だけど、その有機体の身体の細胞レベルでナノマシンみたいな物が全身にくっついてるらしいわ」
「ねえ、今度、私の城に遊びに来ない?いや、ぜひとも来て欲しいわ。セレスとか貴女の事を知りたがるわ」
「待って。それなら私の家に先に来て欲しいわ。自分の事は覚えていなくても昔の世の中の事は覚えているんでしょ?当時の人気商品とかの情報があったら教えて欲しいわ」
いつの間にか、ソフィアとの会話に晴海が割り込んできた。その後、チェリーがいた時代の事を聞きだそうと2人で揉め始めるわ。月島が泥酔して役に立たなくなるわ。なんやかんやでワイワイ騒いで無事に終わった。
続く
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