東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第2章・白昼の吸血鬼:その5
朝。夜の冷えが地面を覆っている森の中で焚き火を大治郎はつついていた。いくら線路沿いとはいえ、市街地から離れた森の中ではクリーチャーと遭遇する可能性は十分ある。そのため、交代で夜の番をしていたのだ。実際、夜中にクリーチャーの成りそこないが現れたので、叩きのめしていた。
「おはようございます大治郎様。朝御飯の支度を始めますね」
「おはようチェリー。よく眠れたか?クリーチャーが出る野外は初めてだろ?」
「はい。大治郎様のおかげでゆっくり眠れました。ですが、夜に退治したクリーチャーみたいな人みたいな生き物は何だったのでしょうか?あれもクリーチャーですか?」
「あれは、遺伝子障害が何かで成長できないまま産まれてしまったクリーチャーの成れの果てだ。環境による突然変異で生殖能力を身につけたクリーチャーだから時々、不完全な個体が出ると研究機関等は予想している。クリーチャーに人の遺伝子が含まれている事がわかったのも、ああいう個体がいたからだ。脅威度については動きは緩慢な上に脆い事から低くされている」
「人型のクリーチャーはいないのですか?いてもおかしくないと思いますが」
「ごく稀に寄生型のクリーチャーが、宿主の姿に化けるくらいだな。ただ、寄生型はとても珍しいから、今まで1,2回程度しか見た事はないな。あまり、気にしなくていいだろう。あんな感じに」
大治郎がテントの中を指差すと、そこには爆睡しているソフィアの姿があった。実際、できそこないのクリーチャーと対峙している時も気にも留めず寝続けていたのだ。普段、彼女の女王としての立場には他人には知らない気苦労があるのかもしれない。それからチェリーが食事の支度をしていると、その匂いにつられたのか、ソフィアが目を覚ましたのであった。
日もすっかり昇った後、相変わらずトンネルを行き交う鉄道を見ながら見張っていたが、全く音沙汰はなかった。
「もう、金属の箱を見続けるのは正直飽きたわ。何か起きてくれないかしら?」
ソフィアが愚痴を零す。実際問題、張り込みは地味だ。姿を隠しながら、一点をずっと眺めていれば愚痴を言いたくなっても仕方ない。本当に鉄道が通る以外、何も起こらないのだ。鉄道好きなら色んな形式の車両が通るため、飽きる事はないと思うが生憎、3人は鉄道は好きでも嫌いでもなかった。
「やっと見つけたわよ」
「どこかで聞いた声がしたと思ったら晴海じゃないか。どうした?まだ、進展の連絡はしていないぞ。学校はどうした?」
「フッフッフッ。私が通っている学校にはボランティア制度があるの。わかりやすく言えば社会奉仕制度かしら。それを申請すれば、授業への出席は申請した期間だけ免除されるのよ」
「なんだ、こちらの気遣いは全く持って無駄だったのか」
「私をのけ者にしようなんてそうはいかないわ。今回の件は東雲グループの新しい分野の開拓できるニオイがあるわ。これは絶対逃すわけにいかないわ」
「まだ、相手の正体がつかめていないというのに。商人が考えている事はイマイチわからない」
大治郎は半分、呆れたような感じで返答した。それからしばらく、晴海の自慢話が続き、緊迫した張込現場は幾分が雰囲気が和らいでいるうちに、午前が終わっていた。
「レーダーに反応!人数は1人!トンネルに近づいています!それと同時にトンネル付近に磁場の乱れが少しずつ出てきています」
正午が過ぎ、昼の準備をしようとした矢先にチェリーから緊迫した報告が入る。
「折角、これからお昼にしようと思っていたのに。昼食の邪魔をするなんて無粋な奴ね」
「晴海の愚痴はいいとして、この時間は鉄道がくる時間間隔が少し開くタイミングだ」
「ねえ、職員の可能性は?」
「ソフィア、その可能性は非常に低いぞ。人気がほとんどないこのような場所に職員が単独で来る事は、職員の安全確保の点から職務規定違反だ。この付近にくる時は連絡を入れてもらうようにお願いしてある」
「だとすると騒動の関係者か、それに関係している内通者かしらね」
「どちらにしても現場を押さないとな」
そういうと、4人は音を立てないように線路脇の茂みまで移動し、トンネルの方向を伺うとそこには、背中に蝙蝠のような羽がついた奇妙な格好をした人物が確かにいた。
続く
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