東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第5章・艶美な妖花・その1
ソフィアから強力なカウンターを顔面に受けた城太郎は、勢いよく後頭部から地面に倒れ、ピクリとも動かなくなってしまった。それを見ていたギャラリーは少しの間、沈黙していたが次第に騒ぎ始めた。城太郎は魔女の弟子になってから戦闘に関しては実戦経験は少ない素人であることはたしかである。支給された服で防御力を大幅に高めているが耐久力までは高められていない。そして、顔面はその防御力を高めている所の外だ。すなわち、急所だ。
「城太郎さん!?城太郎さん!?しっかりしてください!!」
不知火が声をかけるが、城太郎はピクリとも動かない。
「大変。私、あの人を殺してしまったのかしら??」
たしかに日頃からクリーチャーを殴り倒していたり、王国の腐敗を招いていた貴族連合を物理的にぶっ潰したソフィアの攻撃を、最近戦いの場に立った素人がまともに受けたら、そうなっても仕方はないだろう。
「だ、誰か!ここに医者、もしくは回復系精霊術を使えるヒトはいませんか???」
不知火が必死に叫ぶが、周りのギャラリーからは手をあげる人いなかった。いや、もし居たとしても関わったら、その後にどのような事に巻き込まれるかわかったものじゃないと考え、沈黙を続けているのかもしれない。もし、あなたがこの場にいたらどう考えるだろうか?
「はあ・・・。仕方ない。不知火、ちょっと下がってくれ」
大治郎が回復系の精霊術を城太郎に使用した所、無事に意識を取り戻した。
「はっ!自分は一体!」
「お、目を覚ましたようだな」
「さっきまで花畑の近くを大きな川が流れている光景が見えたのですが、あれは・・・」
この城太郎の発言から検査をした方がいいという事になり、彼を病院に送ってその日は終わった。
「大変な事が起こりました」
翌日、宿舎で朝食を食べていると、良くない表情を浮かべている。
「城太郎の頭の打ち所が悪くて、やっぱり死んでしまったのか?」
大治郎の発言を聞いて、ソフィアが飲んでいたコーヒーで咽始めた。
「そうではありません。実は、私達が通る道路ですが、昨夜に大規模な土砂崩れが起きてしまって通れなくなってしまったのです」
「それでは、車での移動ではなくなるという事ですか?」
「いえ、そうしたいのはやまやまなのですが、鉄道の線路も被害を受けておりまして、復旧の目処が立っていないのです」
「それは困るわね。後1週間程度で帰らないと、学校の出席日数に関わるわ」
それを聞いた晴海が膨れ面になる。
「一応、代替のルートについては目星がついております。ここから南西に進んだ所に関と呼ばれる峠があるので、そこを通って抜ける事になります。ただ、その地域一帯は私達に対して排他的な種族が治めるので気乗りがしないのです。それに妙なのですよ」
「その土砂崩れかが?」
「そうです。あの一帯は山の間を通るような道なのですが、ここ10日程は全く雨は降っていないのです。それなのに土砂崩れが起きたのは不可解です」
「狙いは俺達か?」
「わかりません。ただ、注意はしておいてください。今日、通る所は私にとっても危険な所です」
そういうと不知火は、油揚げに齧り付いたのであった。
【登場人物紹介・その7】
■秋葉原 城太郎(アキハバラ ジョウタロウ)
■種族:人間
■性別:男性
■職業:魔女の弟子(という名の小間使いっぽい)
■好きな物:散歩、ホビーショップ巡り
■嫌いな物:満員列車
■誕生日:11月1日
魔界において魔女と呼ばれる人物に師事している普通の人間。前職はなんとサラリーマンだったという経歴の持ち主。魔界に行くことになった経緯は転職活動中に出ていた求人広告に応募したことがきっかけ。精霊術の扱いは、ほとんどできなくなっていたが、魔界に行った際に師から手ほどきにより再び使えるようになった。魔界ではロングドレスに身を包んだお嬢様のような恰好をしている。身に着けている衣服は全て魔女の手作りであり、彼のサイズに合わせて作られている。なお、女装癖があるわけではなく、魔界で活動する時の制服という位置づけであるらしい。
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