東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第4章・魔女の弟子・その1
翌日、相変わらず宿舎の駐車場は穴ぼこだらけであった。駐車場を穴ぼこだらけにした張本人・ユイは、あの後そそくさと鉄道に乗って帰ってしまったのだ。
「・・・・・・代車を手配しました。朝食が終わる頃には届くでしょう」
昨日、ユイのメテオスウォームで自分の車を破壊された五尾の火狐・不知火は意気消沈したままだ。
「元気ないわね」
「・・・・・・一週間」
「え?」
「一週間ですよ!一週間!新車を受け取って廃車になるまでの期間がですよ。これは凹まずにいられますか!」
「こ、怖いから顔を近づけないでくれる?」
不知火が晴海に絡む。車が壊れた事で情緒不安定状態になっているようだ。
「車ならウチでも取り扱ってるわよ。ワゴンからスポーツクーペ、何でも揃ってるわよ」
「結構です。私の所はいつもお世話になっている所がありますので」
「それで今日はどこに自分達を連れて行くんだ?」
「本日は尾張を通って京の都に到着と予定しています」
「そして、昨日みたいに何回か戦う事になるんだろう?本当の目的地にはいつ着くのやら」
「ご心配なく。明日には私の姉の所に着く予定ですよ」
(どうせあった所でロクな事にならないと思うんだけどな)
魔界にやってきたものの、今回の騒動の核心には一切近づいていないからだ。朝食を食べている時も、車に乗っている時も、大治郎達に対して敵意を向けているならいつ襲い掛かられてもおかしくはないからだ。だが、そういった動きは今の所はなかった。昨日のユイとの戦いも偶発的な物ではなく、どことなく待ち伏せされていた感があったからだ。
「ねえ、地図を見ていて気が付いたんだけど、この世界の地形って私達の世界とほとんど同じなのね」
地図を覗いていた晴海が呟く。
「ええ、この世界の地形は今から5000年程前の日本の地形をコピーして作られました。現在までに天候や自然災害、開発等で若干変わっている所もありますよ。ただ、この世界とあなた達の世界は重なって存在しています。面白い事に、あなた達の世界で起こった事はこちらの世界でも発生するのですよ。天気が一番わかりやすいですかね。あっちが晴れならこっちも晴れ、台風が来ればこの世界も台風に見舞われる。大規模なトンネルが掘られたり、海に埋立地を作ったら、こちらの海も同じ場所に埋立地が現れるのです。ただ、魔界でそのような事をしても、あなた達の世界には影響が無い仕組みなっているのです」
「そして、その影響が起こりうる事案が発生しないか、こっちの世界にヒトを派遣して情報を集めているという事か」
「察しがいいですね。その通りです。我々、魔界の者はあなた達の世界から別れて随分時間が経っていますが、あなた達が気づかないだけで、我々は常に近くにいるのです」
「今回の騒動は、派遣した魔界の人物から持たされた情報から起こっているのか?」
「それについては私の方から話す事はできません」
それ以降、不知火はこの話については沈黙を貫いた。肝心な話を聞きたければ私の姉に会えという事なのだろう。ただ――
「埋立地ができると魔界にも影響が出て、埋立地が現れる。じゃあ、今、グループが進めていると聞いたイースト湾で事業中の海洋開拓計画は影響が出ていると事なのかしら・・・。だとしたら、ウチのグループは――」
晴海には何やら、東雲グループ内の事業で魔界に影響が有りそうな事をしているようで、ぶつくさ言いながら表情がコロコロと変わっていた。
続く
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