東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第3章・酒呑妖精:その5
「さて、今日はこの街で休みます」
ゲートを潜ってからは車で移動しっぱなしだった。駐車場に車を停めて、海を望むとある事に気がついた。かつての超高度文明時代に存在していた軌道ステーションに繋がる軌道エレベーター跡が見えたのであった。
「不知火。1つ聞いてもいいかな?あの軌道エレベーター跡となっている塔は、自分達の世界と同じ物か」
「その通りです。あの軌道エレベーター跡はあなた達がいつも見ている物と同じです。ここ魔界はあなた方の世界と重なるように存在している意味の実感を持てたでしょう」
「魔界の人達は軌道エレベーターに調査隊を送ったのか?」
「もちろん送りましたよ。誰も立ち入るヒトはいないのに、オートメーション化された機械が、整備を続けている模様です。それ以降は監視装置をつけていますね。あなた達の調査隊がやってきて、警備システムにちょっかいを出して、追い出された事などを記録していますよ」
どうやら魔界の住人は大治郎たちの世界に対して、情報を集めるための何らかの方法をばら撒いているようだ。しかも超高度文明崩壊後からずっとだ。不知火が説明をしつつホテルの入り口に向かう途中、柱の陰から出てきた人影と不知火がぶつかってしまった。
「どこみて歩いてんのよ!おかげで中身が少しこぼれたじゃない」
ぶつかった人物がふと、顔を見上げると何かに気が付いたようだ。
「って、アンタは近江の不知火じゃない。つまり――」
ぶつかった人物がこちらを覗く。
「ふーん。後ろに連れている5人が第一関門を突破したのね。5人で1人を相手にするタイプかしら?」
「いえいえ。1人は付き添いですが、4人とも1対1でも十分に実力を持っています」
「この間も腕っぷしは確かと言っていなかったかしら?実際、チェックした所、私の精霊術で黒焦げにした覚えがあるのは気のせいかしら?それに1人はまだ子供じゃない」
「私と同じくらいの身長のヤツに子供呼ばわりされたんだけど。あの格好はどうみてもコスプレをしているとしか思えない格好のヤツに」
たしかに晴海を子供呼ばわりした(実際に12歳の子供であるが)相手はたんぽぽの葉っぱに酷似した物が片側3本ずつ、合計6本背負っている。
「ユイさんは妖精族の出身ですよ」
「妖精?チェリー、妖精とは何だ?」
「私が覚えている限りでは、人々に悪戯を度々行ったりするそうです。時には人を攫ったり過激な事もするみたいです」
「ねえ、不知火。こいつらは何を言っているのかしら?根本的な部分が抜け落ちてる気がするのは気のせいかしらね。嘆かわしい」
そういうと、酒瓶の蓋をあけて中のお酒を呑み始める。そうとう強いお酒なのだろう。アルコールの匂いが漂ってくる。
「せっかくだから教えてあげるわ。これだけ覚えていればほぼOKよ。よく、聞きなさい。妖精はね自然現象に由来した存在なのよ」
「酒臭い妖精から教えられてもね。信憑性がかけるわ」
「全く口が減らない子ね。最近の子供は種族問わず生意気な世間知らずばかりね」
「不知火。彼女は普段、どのような事をしているのだ?」
「ユイさんはですね。妖精族とは珍しい教師の役職に就いているんですよ。大学で研究室も持っていますよ」
不知火が説明している間に、2人が火花を散らしていた。
続く
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