東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第3章・酒呑妖精:その4
「大治郎様、ちょっと」
「どうした?チェリー」
「あの尻尾って全部本物ですか?」
「は?」
チェリーの唐突な質問にあっけにとられてしまった。チェリーによると耳と尻尾があるのはわかるのだが、5本はあきらかに多すぎだというのだ。1本は本物で残りはアクセサリーではないかとのチェリーの意見だ。
「全部、聞こえていますよ・・・」
不知火が静かにそしてちょっとあきれたような声で会話に入ってきた。
「結論から言いますと、私の尻尾は全部本物です。妖孤というのは年齢と魔力の強さによって尻尾が増えていくものなのです。もちろん歳を重ねても魔力が無ければ、尻尾は増えませんね。触りたさそうな顔をしていますが、気安く触らないで下さいね。手入れは大変なので」
「妖孤の尻尾。毛を刈り取れば冬用のマフラーには丁度いいかもね」
「あなたは恐ろしい事を言いますね。まあ、姉の方がもっと凄いですよ。それを見たら、マフラーにしよう等とは思わないでしょうね(商人は油断ならない存在ですね)」
突然、口を挟んだ晴海の一言に戦慄を覚えながら、自分の姉の存在を口に出した。
「姉がいたのか」
「ええ、今回私があなた達の案内をする事になったのは、私の姉の指示ですからね。そして、あなた達を姉の元へ連れて行くのも」
「成程。今回の騒動の首謀者から直々のご指名って所か」
「あっ!そういえば私達、このままで大丈夫なの!?」
「ど、どうしたのよ急に」
「瘴気よ。魔界の空気は私達には有害な毒素が含まれているはずよ」
「そんな物は含まれていません!この世界はあなた達の世界を元に作られているので、空気も同じです!本当にあなたは私達に関して間違った知識をお持ちのようですね!」
不知火が魔界や魔族についての間違った知識を持つチェリーに対して、魔界の事を説明しながら西へ向かっていく事になった。その話の中で魔界は超高度文明崩壊後の戦争の最中に作られ、地球にいたほとんどの魔族と呼ばれた人達が移住したのだ。技術の分野では、超高度文明時代の技術ではなく、地球古来からの技術を選択したのであった。精霊術を始めとする精霊の力を使用する方法も地球古来からの技術の1つらしい。
「鉄道があるようだが、わざわざ時間がかかる車を選択した理由はなんだ?」
「当初はその予定だったのですが、姉が急遽変更するように命じたのです」
「私達が鉄道に乗ると問題が発生するから?」
「そうです。今、この世界では外の世界の人間に対する明確な扱いは決まっておりません。何か特別な待遇があれば話は別ですが」
「今回の件でも、その特別な待遇にはならないのか」
「はい。もし、その状態で鉄道に乗ったら、血の気が多い魔界の住人達とトラブルになることでしょう」
「それで私達が襲われる訳ね。いくら数が多くても狭い車内なら私の格闘術の餌食よ」
「いや、そうではないんです。あなた達が襲いかかってきた人達を悉く、病院送りにしてしまうとの事でしたので」
それを聞いた途端、大治郎に視線が集まる。その反応をみて困惑した表情を見せるが、車内にいる誰もが、“この人ならやりかねない!と思うのは必然であった。
続く
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