東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第4章・魔女の弟子・その4
ソフィアが放った蹴りは見事に城太郎の脇腹に命中。その一連の流れから勝負はあっけなく着いてしまったように見えていた。しかし、
「流石に、今の俺じゃ素早い動きを避けるのは難しいか」
「なっ!後ろ回し蹴りが完全に入ったというのに、効いてない!」
持っていた日傘を振り回してきたので、それを避けるために後ろに下がった。
「たしか時属性がどうとか言っていたわね。今のもそうなのかしら?」
「いいえ、違いますよソフィアさん。彼が着ている服は魔女が作った特注品。精霊術さえまともに使えなかった彼が魔界でやっていくために作ったものです。見た目に騙されてはいけませんよ。防御力に関しては、周りのギャラリーが彼に襲い掛かっても、あの服に傷はつけられないでしょう」
「つまりは、肌が露出している所以外は有効打にならないって事ね」
「さあ、それはどうでしょうか?」
不知火のアドバイスを聞いて、城太郎を一瞥する。肩も隠れるロングドレスに加え、ロンググローブで肌が露出している所は、首元から上の部分である顔くらいなものだ。
「だったら、露出している所を狙うしかないじゃない!」
そう言って、城太郎に詰め寄るが大きな日傘を開かれてしまい、近づくことができない。横に回ろうとしてもそれに合わせて城太郎も動くので、ソフィアの拳打は城太郎に届かせる事ができず、精霊術を放つも傘で防がれてしまうので、あの傘は物理と精霊術を両方防ぐ盾なのだろう。業を煮やしたソフィアが傘の先端を掴み、思いっきり引っ張り、傘を放り投げたのだが、
「!!」
傘を取り上げたソフィアの目に刀を持って突っ込んでくる城太郎が飛び込んきたのだ。慌てて避けるが左肩に切り傷を負ってしまう。後ろに下がっているソフィアに対して斬りかかり、いつしかソフィアの両腕は切り傷だらけになってしまった。
「動きはこっちの方が速いのに、どういう事?こちらの時間でも止めているとでもいうの?」
時属性の精霊術の研究はあまり進んでおらず、そのためより詳細な効果には時間を止めるといったものがたしかに存在している。効果時間は人それぞれで、2秒くらいで動けるようになる人もいれば10秒近くかかって動けるようになるという事例が確認されている。もちろん、それ以外にも動きを早くしたり遅くしたりする精霊術も確認されている。今回のケースは時間は止めずに、自分の動きを早くしたか、ソフィアの動きを遅くしたのかのどちらかだろう。ソフィアに放り投げられた傘を手に取ると再び、盾のように前に掲げた。
「中々、いい戦い方をしていますね。城太郎さんは。最近までこういう生活とは無縁だったのにね」
「無縁?じゃあ、こっちに来るまでは何の仕事をしていたのよ?」
「毎朝、通勤ラッシュというものに乗って無駄な体力を使って、夜遅くまで働くサラリーマンと言えば、商人の家に生まれたあなたにはわかりやすいでしょう」
「サラリーマンね。たしかにわかりやすいけど、そういう働き方は嫌ね。でも、どうして魔女の弟子に慣れたのよ?」
「あなた達の世界で採用テストを行ったのですよ。自室付きで住み込みで盆と正月くらいしか自由に家に帰れる日は無いけど、給料が給料だったので沢山、応募してきましたよ」
不知火が晴海に城太郎が魔女の弟子になった経緯を話しているとギャラリーが歓声を上げた。傘を開いたままの状態で傘を貫いて放った突きがソフィアの左肩あたりに突き刺さったのだ。ソフィアが傘を奪おうという時に左手を前に出していた時だったのだ。ソフィアはその突きで受けた傷を右手で押さえていたが、深手らしく、血がダラダラと左手を紅く染めていった。
(おそらく、避けるときに私の動きを遅くしている!だから避けきれないから私の腕が傷だらけになるのだわ。攻撃を当てるのであれば、発動される前の刹那の瞬間にカウンターを叩き込むしかない。いくら魔女の弟子と呼ばれていても、アイツは最近まで戦いとは無縁な生活を送ってきたのだから、強力な一撃を叩きこめば一撃でKOできるはず。確実に私が先に攻撃できる位置まで近づいて、そして相手に先に攻撃させる!)
うなだれていた顔をあげ、左肩を抑えながら左手を真正面に突き出す。
「かなり上手く決まったと思ったけど、まだ、左手が使えるのか?」
「サウザント流の格闘術を甘く見ない事ね。私が避ける時に精霊術で遅くしていたようだけど、それが通じるとは思わない事ね」
そう言うと、城太郎が仕込み杖を構えて突きを繰り出してきた。狙いは右肩!
(まだよ!ここじゃない!)
迫りくる刃の刃先を凝視し、ギリギリまで引き付ける。そして、刃先が右肩に近づいてきた時、
(ここだ!)
一瞬にして、身をかがめて刃をかわして、強力な拳打を城太郎の顔面に叩きつけた。
第5章へ続く
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