同人サークル・東都幻想工房の近況等を報告するブログです。 また、二次創作小説等も掲載しています。
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序章
2009年。ソマリア沖の海賊哨戒の任にあたっていた、日本の海上護衛艦「さみだれ」が消息を絶った。その後、イギリス艦隊が海上を移動する謎の人影を発見。この時から世界各地の沿岸部で奇妙な人影が目撃されると同時に、船舶が襲撃及び消息を絶つケースが目立ち始める。逃れた船員の証言によると、砲撃や小型の飛行物体による攻撃を加えられた模様。
2010年。昨年から発生している一連の船舶襲撃事件の犯人を断定。出所不明の武装及び海の底から現れるような出現のため、海上を移動する集団を国連が“深海棲艦”と呼称する。
2011年。インド洋沖海戦。多国籍軍を中心とする連合艦隊は歴史的大敗を記す。ロシアが各国の反対を押し切り先制核攻撃を実行、一時的に優勢に立つものの、撃破しても無尽蔵に現れる深海棲艦の物量に圧倒され、各国の艦隊は撤退を余儀なくされる。
2013年。東南アジア海戦。インド洋沖海戦に続いて連合艦隊は歴史的大敗を記す。この戦いにおいてマレーシア、シンガポール、インドネシアを始めとする国家は深海棲艦のテリトリーとなった。また、この戦いの後、強力な海洋戦力を持たない国の沿岸部に深海棲艦の襲撃が発生するようになった。
2014年。沖縄本島強襲事件。沖縄本島に深海棲艦の大編隊が強襲。沖縄本島に展開していたアメリカ海兵隊と海上自衛隊の艦隊は、沖縄本島の全住民と共に全滅した。同時に海上自衛隊は再編が不可能な状態に陥り、事実上壊滅状態となった。
2015年。世界各国で深海棲艦に対する各戦法を確立する中、日本は艦娘を開発。肝心な部分がブラックボックスの出所不明の技術。完成後、開発責任者が行方不明になる。生物兵器、人権侵害等、否定的な意見が出る中、時の政権は深海棲艦用の対抗策として、艦娘の配備を決定。軍事研究や兵器開発が他国よりも遅れていた日本に取っては藁にもすがる状況であった。
2016年。小笠原撤退作戦成功。小笠原諸島に取り残された住民を本州に避難させる作戦に、艦娘を実戦配備。これは艦娘を使った初めての作戦でもあった。この成功を期に艦娘を中心とした小艦隊を日本中に配備する法案を国会で承認。同時に艦娘中心の鎮守府の提督の募集を開始。
そして2017年――
第一章・オンボロ鎮守府
――鹿児島県阿久根市阿久根駅
朝の通勤ラッシュが終わり、街に静けさが戻ってきた頃、駅に入ってきた列車から、鞄を持った白い制服を着た男が降りてくる。格好からして何かの制服である事はわかる。改札口を出て辺りを見回すと、駅前に“SAITO”と書かれたスケッチブックを持った女性達が目に入った。
「斉藤提督ですね?」
スケッチブックを持った女性が声をかけてくる。
「そうだ。君は大淀だね?」
「ハッ!その通りです。大淀と申します。鎮守府の事務を担当させていただきます。そして――」
敬礼をしつつ、後ろにいる二人を見る。
「私は明石といいます。鎮守府の整備を主に担当します」
「い、磯波と申します。よろしくお願いします。提督の秘書を勤めます」
「私は斉藤だ。今日から君達の提督となった。改めてよろしく頼む」
お互い敬礼をした後、停めてあった車に乗り、自分達の鎮守府がある佐潟へと向かった。
2015年に艦娘が正式採用されてから日本は大きく変わった。日米安全保障条約で賄っていた日本防衛は限界に来ており、この期に日本の自衛隊は日本防衛軍に再編され、諸外国に正式に軍隊を所持した事を表明。その事に関して、中国、韓国そして北朝鮮は太平洋戦争時の侵略の再現等、的外れな非難を表明。その事に対して日本政府は今までにない速さでこの3ヶ国との断交を発表。この3ヶ国の国籍を有している人物を強制送還を行う等の制裁を実行。アメリカ等からその処置に関して咎められたが、日本政府はそれを一蹴した。海洋国家である日本において、既存の防衛装備が深海棲艦にはまったく歯が立たない状況において、艦娘は日本防衛の最後の手段として捉えられていたからだ。
艦娘が正式配備として決定されると同時に兼ねてから進められていた防衛計画は全て艦娘を中心とした物に置き換えられていった。対馬列島や奄美大島の要塞化は沖縄本島を奪還する事を目的としているのではないかと専門家達で持ちきりとなった。艦娘の存在自体はブラックボックスの塊と言っても過言ではなかった。日本が深海棲艦に対抗する手段が尽きていた中、突然現れた唯一の対抗手段。しかし、艦娘が完成後、開発責任者が蒸発してしまったため、燃料、鋼材、弾薬、ボーキサイトと専用資材の5種類を組み合わせただけで、なぜ艦娘ができるのかは未だに謎のままだ。艦娘を創り出す装置は責任者が残した設計図を元に組み立てられている。艦娘の武装もそうだ。駆逐艦の艦娘の主兵装の1つである12.7cm連装砲は、実際の駆逐艦に搭載されていた大きさとはうって変わって小さい。とにかく小さいのだ。中学生の女子が持てる位の大きさであった。だが、実際に深海棲艦をそれで撃破している実績があるため、深海棲艦に対する特殊効果があるのではないかと噂もされている。
さて、その艦娘は実際の船に比べてはるかに低コストで製造できるのが魅力であるが、深海棲艦と戦える事以外は普通の人間と全く同じである。食事もすれば喧嘩もする。中にはアイドルグループのおっかけになってしまった艦娘もいる。また、同じ艦娘であっても性格や好みに差が有る事も確認されている。普通の人間とまったく同じなのである。そのため、艦娘にも生活費という名目で給料が支払われている現在であった。
「鹿児島県は遠いな」
静かな車内で斉藤がぽつりとつぶやく。
「提督はどちらから、ここまでいらしたんですか?」
「千葉の柏だ。寝台列車で熊本に入った。君達は3人一緒に阿久根駅まで来たのかい?」
「はい。私達は横須賀で辞令を受けた後、熊本入りしました。そこでこの車をもらって提督と合流となりました」
磯波が答える。ただ、横須賀から熊本に行くまで手配の違いか、夜行バスで福岡まで行く事になったとか。
「斉藤提督はどうして、司令官になったんですか?」
「特に理由は無いんだ。学生時代の友人が艦娘の司令官になったと聞いてね。そいつに誘われたのがきっかけだ」
別にこれという理由は無かった。進んで応募した訳でもない。深海棲艦との戦いが始まり、混沌な世界になりそれを救おうというヒーロー的な願望すら無かった。大学を出てそのまま東京の会社に就職して働いていた。会社で営業をやっていたが、ライバル会社とのマネーゲームに振り回されたり、自分達の仕事の価値である金額を自ら下げていく世界に辟易していた。そんな中、自衛隊に入隊していた学生時代の友人より、新たに装備する艦娘の提督になったと連絡が入り、公募が始まるからダメで元々で受かってしまったため、ここに来たのだ。
「少なくても、今は希望を感じられる。前の仕事よりもね」
艦娘も提督もお互い0からのスタートであった。
続く
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