東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第2章・白昼の吸血鬼:その6
「怪しい、怪しすぎる。蝙蝠の亜人に見えるけど、あんな肩やヘソが出ているはだけているように見える服はないわね。仮装パーティーにでも行ってきたのかしら?」
ソフィアの発言を聞いて、夏に会った時に肩やヘソを出してる服を着ていたのは他ならぬ言っている本人である。五十歩百歩であろう。
「とりあえず、捕まえて拷問にかけるのよね?我々はいつも正義だ、という感じで」
「晴海、君はどこでそういう言葉を覚えてくるんだい?ここは普通にホールドアップだ」
大治郎は精霊銃を取り出し、獲物を狙う猫のように静かに蝙蝠の亜人と思われる人物の背後に近づき、銃を構えて言葉を発しようとした瞬間――
フォン!
突如、後ろにいる大治郎に向かって、振り向きながら引っ掻き攻撃を繰り出してきた!大治郎はとっさに後ろに飛んだが、精霊銃の銃口は向けたままだ。
「かなり静かに近づいたが、よく気がついたな。どうやら蝙蝠の亜人ではなさそうだな」
「あなたこそ、ただの人とは違うんじゃないかしら?それにあそこの茂みに4人隠れてるでしょ?」
茂みからチェリー、ソフィア、晴海、月島がバツが悪そうな顔を出す。
「何よ、最初からバレバレだったというの?」
「気をつけろソフィア。こいつはそこいらの傭兵やクリーチャーとは全く違う。何を仕掛けてくるかわからんぞ」
「私を亜人やモンスターと一緒にしないでもらいたいわね。私は誇り高いヴァンパイアなのよ」
ヴァンパイア。たしかに5人はそう聞いたが、全員の頭の中で“?”マークが浮かびあがったのだ。そもそもヴァンパイアを始めとした“悪魔”と呼ばれる人達は、超高度文明崩壊後から全く持って見かけない存在となってしまったため、伝説的な存在になってしまったため、ピンッとこないのだ。この間、晴海が仕掛けた騒動に妖狐の不知火がいた事態とても珍しい事だったのだ。5人が余りにもしらけた反応だったので、ヴァンパイアと名乗った女は少々焦り始めた。
「何よあなた達、ヴァンパイアを知らないの!?」
「知らないもなにも。それが本当かどうか判断する材料がないな」
「アッハハハハハ!ヴァンパイアって吸血鬼の事ですよね?そんなの嘘に決まっているじゃないですか」
突然、チェリーがお腹を抱えて笑い出す。
「吸血鬼は太陽の光を浴びると灰になって死んでしまうのですよ。だから、夜に活動して人を襲うのです。それなのに、堂々と日向に立っているじゃないですか」
「何?ヴァンパイアって太陽の光で死んでしまう程、ひ弱なの?」
「でも、灰になっていないという事は、日焼け止めクリームか何かをつけているのではないでしょうか?」
「もし、そうなら何とか手に入れて商品開発チームに渡してみたいわね。あたらしいUVカット商品ができそう」
「ちょっと!ヴァンパイアが太陽の光に弱いのは相当前の話よ!それにひ弱ではないわよ。素早く空を飛ぶ事もできるし、人間だって簡単に吹っ飛ばせる程のパワー、それに多種多様な属性を含めた術を使えるわ。あなた達がいう精霊術ってやつね」
「それでも激しい流水に飲まれると死んでしまうのでしょ?」
「誰だって水に呑まれたらただじゃ済まないでしょ!」
「後は、胸に木の杭を撃ち込まれたら死んでしまうとか」
「チェリーさん。それはヴァンパイアに限らず、私達も死んでしまうと思うのですが・・・」
「ところがですね月島さん。吸血鬼はあえて、木の杭に弱いという弱点が言い伝えられているのですよ」
どうやらチェリーは、ヴァンパイアに関する知識を有る程度持っているようだ。
「あと、1番重要なのがですね。吸血鬼に血を吸われると吸われた人物も吸血鬼になってしまうのです!」
「なによそれ・・・。という事はウィルスか何らかの感染症を持っているとの事?つまりは保健所送りの案件じゃない!」
「えーい、うるさい!やかましい!ヴァンパイアは変なウイルスとか持ってないわよ!それに噛まれたらヴァンパイアになるのだったらとっくの昔に地上はヴァンパイアだらけよ!最近の人間達は私達の事を忘れてやりたい放題しているというのは間違いじゃなかったのね!そこのチェリー頭!まずはあなたからヴァンパイアの凄さと恐ろしさを味あわせてあげるわ!」
どうやらチェリーのヴァンパイアに対する知識は間違いが多く、それが災いして火をつけてしまったようだ。まあ、さんざんボロクソに言われた挙句、ウィルス持ち等コケにされたら、怒り出すのは無理はない話だ。
続く
【登場人物紹介・その5】
■クレイン・トゥルース
■種族:ヴァンパイアとサキュバスのハーフ
■性別:女性
■職業:看護婦
■好きな物:健康なヒトの血液、焼肉、ヘルシーサラダ
■嫌いな物:不健康なひとの血液、やたらと油っこい物、ブラックコーヒー
■誕生日:12月21日
太陽の光を浴びると灰になる等の話は、はるか昔の時の種族の話らしい。今は太陽とお友達で、昼夜を問わず活動可能だそうだ。吸血の方法もだいぶ変わったらしく、気絶させた後に専用の器具を使って血を抜き取るのが主流であるそうだ。齧りつくのは戦闘時の攻撃方法として使われるのがメインだとの事。特に彼女は看護婦として人体の構造や治癒系の精霊術を把握しているため、証拠を残さず効率的に血を奪う事ができるそうだ。現代の人間は血にいろんな物が混じっているため、そのまま飲むと不味いらしい。
父親がヴァンパイア、母親といとこがサキュバスである。そのおかげかプロポーションは抜群で、オータムリーフフィールド辺りを歩いていれば、男性陣の目線が釘付けになるだろう。お酒を外で飲んだ時、いつの間にか家に居て帰って、来る途中の記憶がない場合は、彼女達に血を抜き取られたのかもしれない。翌日、フラフラするのも二日酔いではなく、一時的な貧血の可能性がある。