東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅳ ~【小説版】
第5章・爆裂暴走車両:その9
「軽トラを発見!対象は環状1号内回りをシルバーチェアー方面に進行中!ぐあっ!」
「はい。連絡ご苦労様」
大治郎達を乗せた軽トラを発見したバイカーが報告後、紗江が放った精霊弾で沈黙した。
「居場所が完全にばれたわ。あのトラックもどこかの導入部からやってくるはずよ」
「紗江。道路を川に落とすのに、弾は何発必要だ?」
「2発あればいけるわ」
「トラックに見つかる前に一発仕込んでおきたい所だ。場所は日本橋の所にする」
追って来るバイカーや航空戦力を落とすのはもはや手馴れた物となってきた。しかし――
ドガアァァ!!!
シーサイドガーデン近辺のトンネル区間を進行している時、何かが壁をぶち破り、追って来た連中を巻き込みながら内回りの道路に乱入してきた!
「見つけたぞ!!」
それは紛れもなく赤いピックアップトラックであった。運転手を交代したようで、月島が運転手で会長が機銃の所に立っている。
「これでもくらいな!」
そう言うと会長が機銃を乱射してきた。会長と大治郎達との間には他のバイカーやら車両がいるのだが、それをお構いなしにだ。
「おいおい。頭に血が昇ってしまったようだ。見境がなくなってしまったぞ」
大治郎達が乗る軽トラと、会長が乗っているピックアップトラックの間には、バイクや車に乗った相手がいるのだが、容赦なく巻き込んでいた。機銃の弾幕に巻き込まれた車がスリップして壁に激突、避けようとしたバイクがバランスを崩して転倒する始末だ。ただ、的確ではないが機銃の弾丸が時折飛んでくるため、気を抜く事はできない。
「女は度胸よ!」
そう叫びつつ、精霊手榴弾を投げ込んでくる。着物を風に靡かせながら、精霊手榴弾のピンを口にくわえて外す姿はとても商売人には見えない。精霊銃で撃ち返そうとして弾をあてた所、爆発と共に耳を劈くような音が響き渡った。大治郎達はもちろん、追随していたバイカー達全員も耳を抑えるハメとなり、路肩によって止まってしまった。
「何があったのよ!頭が痛い!」
車を運転していたセレスから苦情がくる。ハンドルを握っている彼女は耳を寝かせている。ソフィアも同様である。手を使わずに耳を閉じれるのは、こういうときに便利だ。
「ハハハハハ!新型の音波精霊手榴弾のお味はどうかな?従来の閃光精霊手榴弾を改良して、発生させる音を特化させたのだ。視認性は悪くせず、すぐに攻撃に移れるのが特徴だ」
「ごちゃごちゃ煩いわね!これでも喰らいなさい!」
ソフィアがロケットランチャーを発射する。弾はフロントガラス目掛けて飛んでいき、爆発する。濛々と煙があがるが、フロントガラスにはヒビ1つも入っていなかった。
「滅茶苦茶な耐久力ね。戦車砲にも耐える可能性はありそうね」
「セレス!右だ!八重洲支線に入るんだ!」
セレスが右にハンドルをきり、八重洲支線に無理やり入る。環状国道は上りと下りは別々の道路なので、八重洲支線を逆走する形となった。
「こっちだ!ついて来な!!」
そう叫びつつ、大治郎がロケットランチャーで攻撃する。トラックの側面に命中したが、相変わらずの堅牢さを見せ付けられている。
「周囲に連絡しろ!連中は八重洲支線を逆走していると!各JCTで待ち伏せさせるんだ!」
会長の叫び声が小さく聞こえてくる。各JCT付近にいる参加者に呼びかけて挟み撃ちにする予定だろう。
「セレス。次のJCTを左に入って本線に戻ってくれ。そうすれば日本橋に戻れる」
「待ち伏せがあるわよ」
「それは予想済みさ。ロケランも残り少ない。次の日本橋で決着をつけるさ」
荷台に残っているロケットランチャーの弾薬もわずかだ。待ち伏せの敵を1回だけ散らす分しか残っていない。
「前方に敵!」
「避けるのよ!こっちは逆走してるのだから、ぶつかったらお互い痛いじゃ済まされないわよ!」
「怯むな!アクセルを踏み込んで突っ込んでやれ!」
ソフィアと大治郎がロケットランチャーに弾をセットしながら、セレスに注文をつける。しかし、そうはしなくても、軽トラの後ろを高速で赤いピックアップトラックが突っ込んでくるのだ。おまけに“道を空けろ!”とスピーカーで指示まで出している。JCTというが次の分岐点はJCTといえる物ではなく、ただの分岐点だ。本来なら分岐した後、急な坂を下ってトンネルに入る道となっている。その坂を軽トラは勢いよく飛び出した。
「いたぞ!撃て!」
紗江と大治郎がロケットランチャーを待ち伏せしている部隊に向けて発射する。狙いは敵の撃破ではなく攪乱が目的であり、爆発と煙が立ち込める間に本線へ向かうことができればいいのだ。作戦は上手くいき、無事に本線に戻る事ができた。一方、相手は多くのバイカーや車両を引き連れて大治郎達を追跡していた。
「じゃあ、これで終わりにしましょう」
紗江が地面に向かって弾丸を撃ち込む。すると、撃ち込まれた路面にヒビが入り、豆腐を潰したように崩れはじめた。
「なんだとーっ!!」
崩落した地面に巻き込まれ、後続のバイカー達と共に落下していくピックアップトラックから叫び声が響き、サッパーンという水没する音と、崩れた道路が日本橋に直撃する大きな音が響き渡った。
「これであの車はリタイアだな」
いくら防御力が高くても水没してしまっては、車のエンジンもダメになってしまうだろう。例の車が沈んだ所から大量の泡と会長が何かを叫んでいるを確認した一行は、次の目的地へと進んでいった。
【登場人物紹介・その5】
・氏名:東雲 青海(シノノメ アオミ)
・性別:女性
・誕生日:11月1日
・武器:特に無し
・職業:東雲グループ会長
世界大手企業、その名を知らぬ東雲グループの現会長を務める人物。過去でも会長を務めていた実績がある。しかし、東雲グループの会長は退いたが、引き継いだ会長が急逝してしまったため、次の会長候補が育つまでの、つなぎとして会長に復帰した。商業、政治等あらゆるジャンルにその人ありと謳われた人脈、知識を持つ。戦いは不向きだが、人脈や知識を活かして戦うために必要な物はすぐにハイクオリティな物を用意する事ができる。また、車に乗ると口調が激しくなる癖がある。
【登場人物紹介・その6】
・氏名:月島 辰巳(ツキシマ タツミ)
・性別:男性
・誕生日:6月8日
・武器:特に無し
・職業:執事
東雲グループに務める執事。彼の職場は創業者一家が代々暮らすお屋敷である。彼が担当するのは先代会長が残した一人娘。半分召使いのような扱いを受けつつ、我儘に応じながら、日々の生活を支えている。先代会長に見出され、執事として仕えることになった過去がある。我儘な先代の一人娘の執事として仕えることになったのも先代会長から頼まれたからである。
第6章へ続く