東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅲ ~【小説版】
第4章 養老鉄道・その1
「兄さ~ん、このままずっと歩いていくつもり?あれの後だとさすがに疲れるわ。話に寄れば、鉄道で安房の方に向ったんでしょ。私達も車か何かで移動するべきだわ」
紗江は口を尖らせながら呟いた。あの後、新米に得意の陰陽術で何かしたようで奥で気を失っている。この情報は陰陽術で引き出したのであった。たしかに印旛から酒々井の間は、車か徒歩の二つしか移動手段が無いが、酒々井から南北に鉄道が走っている。ここから鉄道で安房の方に行くにはサウザント・リーフ経由で向う事になる。
「既に俺達がクラル姫を連れ戻すために、各地の道路で検問は行っているからここで車を借りてもすぐにばれるだろうな。鉄道で行くとしてもノコノコと駅に行こうというなら見張りも配備されているだろうし、戦闘になる上に鉄道も使えないだろう。格なる上は貨物列車に忍び込むしかないな」
「日鉄さんに迷惑をかけちゃうかもしれないけどいいの?」
「事態が事態だからな。大事になったら局長経由で事情を話すか」
日鉄こと日本鉄道株式会社は、日本全国を結ぶ鉄道網を経営している会社である。超高度文明崩壊後、幾多の戦乱を乗り越えながら、日本全国に線路を敷設した大企業である。設立にかんしては自総研も大きく関わっている。今の日本の物流事情はヒトも物資も鉄道による輸送が主体となっている。国道は整備されているが峠や市街地外を夜中に走るクリーチャーに遭遇する可能性があり、鉄道の車両より耐久性が劣る車やトラックでは破壊される恐れがあるため、日本の夜中の物流はほとんど鉄道が担っている。かつては高速道路というものが張り巡らされ、日本の物流を支えていたが、今は遺跡として埋もれたトンネルや高架の残骸が残っている。
「そうと決まれば、貨物列車に忍び込んで移動した方がいいな。近くの路線で張っていればすぐに来るだろう」
酒々井の防衛部隊が展開している所為かすぐ近くに成田線が走っている。都市部と都市部を結ぶ路線ならば、旅客を運ぶ列車が多く走っているが、ここは田園地帯と地方都市を結ぶ路線のため、貨物列車の方が旅客列車よりも多いのであった。程なくして、貨物列車がやって来たため、二人はそれに飛び乗ったのであった。
続く
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