この小説は艦隊これくしょん~艦これ~の二次創作小説です。佐潟2174艦隊・オンボロ鎮守府:第四章・その7
深夜三時。明石がクレーンからワイヤーを下してからかなりの時間が経っている。深海棲艦とは遭遇していないが、目的の重巡も見つかっていない。明石は気軽にワイヤー等を改造してしまった事を後悔していた。“できます”と言わなければ、改造しなければ、今頃はボロボロな建物だけど、柔らかい布団の上でぐっすり眠っていたはずだったのだ。船といえばワイヤーをおろした地点から重巡が沈んでいると思われる範囲をぐるぐる回っているが映像にも金属探知機にも反応は一向になかった。
「アンタ、いつまで探し続けるわけ?本当に見つかるとは思わないけど」
「どうした大井、眠いのか。東シナ海一泊になるぞ」
「なによそれ……」
「あそこにある袋は何だと思う?アレはテントが入っている。この船の上でキャンプする事も想定している」
「艦載機が飛び交うで海域で船上キャンプ!?とても正気とは思えない発言ね」
「だから今、ここにいるんだろ。あきらめろ大井」
そんな身も蓋も無いだらしない会話を行っていた所、金属探知機から耳障りな音が聞こえてきた。何か反応があった事は明白である。斉藤は大淀に減速をすると共に、周辺地点をゆっくり回る事を命じた。例え、金属探知機に反応があったとしても、それが沈んだ重巡の位置を示しているわけではない。沈む原因となった攻撃によって吹っ飛んだ艤装の一部の可能性もある。さらに、太平洋戦争において、沈んだ船や艦載機の一部である可能性も十分に考えられる。お宝であった場合は、それでそれで大発見である。再び金属探知機の音が鳴り響く。船を停止させ、金属探知機のパーツを一旦、引き揚げる。再度、ワイヤーを下ろして今度は目視による確認を行う。取り付けられたライトに映し出される映像が頼りだ。
「今の所、もう少し右に。何か映ったぞ」
「嘘でしょ。そんなご都合主義みたいな……」
大井はボヤいたが、その言葉は気にせず明石は船上で右に移動する。一秒でも早く帰るためには何としても吊り上げる必要がある。次の瞬間、人の手らしきものがちらりと映る。
「ビンゴ!明石、引き揚げろ!」
明石が背負っているクレーンがしなる。それなりの水深から引き揚げるため時間がかかる。艦娘が減圧症にかかるかはわからないが、念のためゆっくり引き揚げているのである。水の中から引き揚げる音と共にぐったりとした女性が引き揚げられる。船に仰向けにして寝かせ、クレーンを外した明石が引き揚げた艦娘の様子をみるため、首筋に手を当てる。
「脈があります。まだ、この艦娘は生きてます」
「水を飲んでいる気配もなさそうだな。沈んでしまった艦娘は不思議だ。むしろ、誰も知らない事だ」
引き揚げた艦娘は、服と艤装はボロボロであり、砲撃でダメージを受けた部分以外も潮の流れでかなり痛めつけられた模様だ。所持していた魚雷は全て流されしまったのだろう。ただ、身に着けている眼鏡が1つも傷ついていないのがある意味、謎である。目的は達したので全速力で佐潟鎮守府に戻り、引き揚げた重巡の艦娘を入渠施設へと安置させる。大淀によれば、入渠させれば復帰は可能であるが、被弾する前の状態に治せるのかは未知数である、むしろ、今回の事は他に誰もやった事がないため、何もかもわからない状態であった。後にわかった事であるが、艦娘達用のアイテムとして“応急修理要員”という物があり、これを装備した艦娘は撃沈するダメージを受けても、これを消費して一回だけ復活する事ができるという。ただ、そのアイテムの入手は難しく、艦隊の運営費を使って購入するか一定の戦果を上げた場合のボーナスとして支給されるかのどちらかであう。今回、形は違うが斉藤達はそれの真似事をしたのである。
「今回、海底から引き揚げたのは重巡洋艦の鳥海というのか」
斉藤が書類を見ながら呟いた。司令部に送る正式な書類は鳥海が入渠が終わってからにするが、加わった理由は工廠での機械と記載してあるだ。まさか、危険を冒してまで海底に沈んだ艦娘を引き揚げに行くと言うあまりにもバカバカしい発想で艦隊に加えたと言っても誰も信じないだろう。頭がおかしいと思われるのが普通だ。
「それで、鳥海は目を覚ましそうなのか?」
「確証は持てませんが、おそらくは大丈夫だと思います。高速修復材を使いましたので、通常よりも早く目覚めるはずですよ」
実際に入渠施設を使った磯波がいうのだから間違いはないだろう。だが、大破とは違う状況なのでそれなりの副作用はあるはずだ。
続く
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