東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅲ ~【小説版】
第3章 新米隊員の悲劇・その4
「新米(しんまい)!増援を呼べ!!」
紗江にかなり倒されたのだろうか、上官が新米に指示を出す。大治郎が精霊銃で射撃を行うと同時に一足飛びで上層に上がる。跳躍力はかなりの物だ。
「HQ!HQ!」
「紗江!通信を妨害しろ!」
「やらせるか!」
新米の通信、大治郎、新米の上司の怒号が響く。紗江の所に兵士が大量に殺到しており、さながら時代劇のように小刀でいなし、札を投げつけ、時折下へ投げて撃退している。
「それどころじゃないわよ!早く、片付けて欲しいわ!」
兵士を有る程度倒したとしても、紗江の所にはどんどん兵士が集まってくる。この防衛部隊に周辺から集まるように指示が出ているようだ。
「ライトニング!」
大治郎は雷属性の精霊術を新米に向けて放つ。轟音と共に稲妻が新米がいる位置の真上から落ちる“きゃぅ!”という小さな声がしたのでヒットしたようだ。
「ちょっ!どこから出てきたのよ!?」
兵士の雄たけびと共にナイフを掲げた兵士が紗江の元に殺到していく。どうやらライトニングが当たる前に応援要請は間に合ったようだ。だが、新米が持っている無線機から煙が出ているため新米が増援を呼ぶ事は出来なくなったようだ。他に無線機を持っている兵士がいれば話は別だが。
「キュービングレイ!」
新米が叫ぶと共に4つの光弾が大治郎に向けて発射される。光属性の精霊術だ。
「そのような精霊術だけじゃ私には勝てないぞ。降りて来い!」
その声が聞こえたかは不明だが、上層から爆弾を投下後、回転撃ちを行いながら下層に下りてきた。可変カートリッジ方式の精霊銃の新しい使い方を覚えたのか、放たれた弾丸は非常にゆっくりとした動きだ。
「これならどうかしら!」
そう言うと精霊銃を空に掲げ数発発射後、地面に立て先程の火柱を発射させる。上空と正面そして援護射撃という多方面からの一斉攻撃となった。さらに回転撃ちで発射される低速弾も重なり、動きにくい空間となった。弾丸を弾き、新米に攻撃を加えようとするとジャンプして大治郎から距離をとる。しかも回転撃ちのオマケもついてくるため、接近すればするほど、低速弾がばら撒いて牽制を行う。どうやら、大治郎の刀の間合いには入らないよう動くように決めたようだ。
「刀の間合いに入らない戦い方は結構だが、時間はあまりかけない方がいいぞ」
時間が経てば、紗江がこちらの支援に回るという事を暗に示している。実際、多数の増援が紗江の元に向ったが全員軽く倒されている。そして、紗江自身は無傷で新米の上司の方へ着実に向っている。誰かが三度目の増援要請の動きがあった場合、紗江はそれを許さないだろう。何らかの対抗手段を使うはずだ。大治郎はすり足でジリジリと距離を詰める。周囲の増援からの攻撃を考えると、強烈な一撃でKOするか素早い連続攻撃でKOのどちらかになるだろう。もしくは・・・・・・。
新米が精霊銃を地面に立てる。新米の方は腹が決まったようだ。連続した火柱が大治郎に向って飛んでくるが、大治郎を確実に狙ってきた。しかも最後の火柱は、真上ではなく大治郎に向って地面から飛び出してくる。誘導性と連射で近づけまいとしているのだろう。だが、新米は大治郎との視界を遮る火柱が消えた瞬間、精霊銃をこちらに向けている大治郎の姿が目に入った。
バンッ!
一発の精霊弾が新米の精霊銃に当たる。その衝撃で精霊銃の向きが変わり、火柱が発射される方向が変わった。この一瞬で十分である。大治郎が新米の懐に飛び込むのは。
懐に飛び込んだ大治郎は遠心力をかけた強力な切り払いを刀の腹でぶち当てる。新米と精霊銃を離すのは十分だった。いくら軍人とはいえ、配属1週間の新兵にはこの一撃は重い。さらに右腕を下げて脇腹を庇ったため、精霊銃は持ちにくくなるのはたしかである。身を起こした新米の前に刀を突きつけている大治郎が目に入る。その視界の隅では上官が紗江に捕まっているのが見えた。勝負あり。こうして酒々井街道の防衛部隊は敗北した。
第4章へ続く
【登場人物紹介・その2】
・新米 三咲(あらこめ みさき)
・性別:女性
・誕生日:2月14日
サウザント・リーフ王国軍の街道警備隊の新人さん。跳躍力は部隊内で1番である。
部隊内でのあだ名は“しんまい”。そのまんまである。
新型精霊銃の試作品を渡され、クラル姫を探しに来た菊川兄妹よ成り行きで戦うハメになった。
1人では当然、勝てないので周辺の仲間に連絡を取って応援に来てもらうといったマニュアル通りの行動。配属されている酒々井街道は、観光地大きな寺院があるマウンテン・ナリタへの警備を主に行っている。
まだまだ勉強中の将来有望な新人さん。
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