この小説は艦隊これくしょん~艦これ~の二次創作小説です。佐潟2174艦隊・オンボロ鎮守府:第四章・その5
漁船の警護、出撃の日々が幾日か続いたある日、明石より例の船の改修が終わったと報告が入った。早速、斉藤が港に見に行ってみるとあのボロボロで廃棄寸前の屋形船が、見事ピッカピカで新品同様の船が出来上がっていた。
「今回の改修は、かなりの大手術でしたよ」
明石が自慢げに話すが、船の周りには多くのコロボックルが倒れていた。おそらく、改修作業で体力を使い果たしたのだろう。しばらくの間は工廠の稼働率は下がるだろう。
「頼まれた通りに塗装は海上や夜間で視認しにくいよう迷彩柄に、後はエンジンですがかなりいいエンジンがついてきたので、駆逐艦の艦娘並の速度、いやそれ以上の速度が出ますよ。ただ、装甲については漁船に見せかけるため、あんまりないのでそこだけは注意してください」
「ああ、今はこれだけでも十分さ。さらに改装を行う余裕はありそうだな」
「そうですね。装甲の強化にあわせてエンジンの出力。鋼材に余裕が出た時にでも指示を出してくれれば作業に入りますよ」
「そうだな。あとはこれを明石に渡しておこう。向こうに無理を言って揃えてもらった。例のクレーンにつけられるようにしてくれ。200m以上の所に耐えられるのを揃えるのは少し苦労したがな」
明石に渡されたのは、防水ハウジングにセットされたウェアラブルカメラだった。さらにライトもついている。明石はそれを受け取って目を輝かせていた。これで斉藤が考えている事に対しての準備が整った。後は大淀からの報告を待つだけとなった。
「提督、これを見てください。」
船の改修が終わって数日後、大淀から一枚の通信文書が渡された。昨日の交戦結果についての部分だ。斉藤が書類に目を通すと撃沈項目に重巡の項目が記載されていた。佐潟鎮守府から比較的近い海域であるが、司令部から交戦許可受けていない区域である。戦艦や空母系の深海棲艦が出没するのは当然といった具合だ。今の佐潟鎮守府の戦力でこの海域に攻め込もうというならボロボロにされるのは火を見るより明らかであった。
「よし、近日中にこの沈没地点に出発する」
「えっ!?」
斉藤から発せられた言葉を聞いた大淀と磯波は素っ頓狂な声をあげた。
「提督!いくら何でも現時点の戦力で出撃するのは無謀すぎます!」
「出撃?何を言っているんだ、俺は出発すると言ったんだぞ。ボロボロの屋形船を改修して偽装漁船迷彩塗装仕様にし、明石がハンドタイプの新しいアームを作って、海底撮影用のライト付きカメラを渡した。これから何をするのか、大体の察しはつくだろう?大淀、この沈んだ重巡の体重はどの位だ?」
「た、体重ですか?それをどうするんですか?」
「どうするって何も。海は潮の流れとかあるんだぞ。その手に詳しい人達にどのくらい影響を受けるか聞いてくるんだ」
大淀から重巡の重さを聞いた斉藤はそそくさとどこかに出かけて言った。斉藤が出かけてから少しの間、磯波と大淀は唖然と立ち尽くしていたが明石がいる工廠へと駆けていった。のんびりと干物を齧っている明石が問い詰められたが当の本人にはまったくもって見当がつかなかった。その後、戻ってきた斉藤より該当海域に出発する日は4日後に決まった。この時、明石は自分が今までやってきた事に対して後悔した。
4日後の夕方、佐潟鎮守府の面々は奇妙な格好をしていた。大淀以外の艦娘はクレーンや艤装を装備しているが、いつものセーラー服ではなく、いかにも漁師という格好であった。ご丁寧にライフジャケットも装備している。丁度、斉藤がこれからの行動について説明する所だ。
「諸君、我々はこれより秘密作戦を実行する。この作戦は司令部を含んだ外部には一切知られてはいけない隠密作戦であるため、他の艦隊の支援は一切受けられない。だが、成功すれば、この戦争における我々の生存率は大きく変わるであろう。今回の目的は約4日前に東シナ海に沈んだ重巡の艦娘をサルベージする事である。明石を始めとする工廠チームが用意した偽装漁船に乗り込み、ターゲット地点において、明石のクレーンにより艦娘を引き上げ、この佐潟鎮守府に帰還するというのが今回の作戦行動である。なお、今回の秘密作戦は“フ号作戦”と呼称する。今を持って有効とする。何か質問は?」
大井が素早く手を上げる。
「アンタ、私達にこんな生臭そうな格好をさせて、どうしようというのよ?」
「大井、作戦中の私の事は“船長と呼ぶように。君達にはあくまで漁船の乗組員であると誤魔化す為の格好だ。もし、他の艦娘達に見つかっても漁を行っていると通信を送る。展開させていない理由は魚が逃げる、もしくは漁場に高速移動中と答えよう。以上だ」
こうして佐潟2174艦隊の秘密作戦が実行された。紅く輝く夕日が港を照りつける中、日本防衛軍、深海棲艦そして漁業権が交わる海域へ悠々と偽装漁船は出港していった。
続く
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