この小説は艦隊これくしょん~艦これ~の二次創作小説です。佐潟2174艦隊・オンボロ鎮守府:第五章・その2
他の鎮守府へ視察へ行く日が来た。しかし、何故か出発時間は漁船警護とほぼ同時である。視察に行くメンバーは磯波と潮が選ばれたが、持っていく装備が変である。視察に行くのには必要かどうか疑わしい物である。
「これが望遠鏡。そしてフェイスペイントです!」
「目的地に近づいたら、これを顔に塗るんですね」
「な、何ですか?この装備は?」
「もちろん偵察の道具ですよ」
「見てください鳥海さん。いらない網に葉っぱを編みこんで簡単な迷彩服を潮ちゃんと一緒に作ったんですよ。お金が有れば、通信販売で迷彩服を買えたんですけど」
鳥海は呆気にとられた。自分の頭の仲のシナプス結合がプツプツと千切れていくような感覚を覚えながらこめかみを抑えた。
「司令官!これはどういう事ですか!?本当に視察に行くんですか?」
「どうも何も他の鎮守府を見てくるための装備だ」
「これでは潜入しに向うようなものです!」
「それでいいだろう。冷静に考えてみろ。いくら自分の所の鎮守府の設備がボロいから見せて欲しいとは言えないからな。通常のどこの鎮守府も多少の差異はあるとしても、大体は自分の所と余り変わりないと思っているからだ」
斉藤の見識は正しかった。佐潟鎮守府のようなオンボロ状態の鎮守府は他に聞いた事がない。もし、ここと同じような鎮守府が他にあればマスコミが嗅ぎつけ、適当な報道を行って市民の不安を掻き立てる事だろう。用意した装備を大切にしまった磯波と潮は漁船が出発した後、海岸線にそって南下していった。大井と鳥海であたった漁船警護だが、帰りに深海棲艦のはぐれ艦隊と遭遇してしまったが、
「大井ちゃん。最近、入ってきた子は中々の活躍だね」
といった具合で、鳥海の射撃で追い払っていた。鳥海は思った。ここの鎮守府にいる人は提督も含め何かがずれてしまっているのだと。そんな鎮守府に来てしまった逃れられない自分に対してなんとも出来ない感情を弾にのせて撃っていたのだった。八つ当たりを受けた深海棲艦が不憫だった。
一方、他の鎮守府の施設の様子を見ていた磯波と潮は望遠鏡を見ながら震えていた。
「はわわわわ。何ですかあの“間宮”と書かれた暖簾がある施設は!?艦娘が光悦な表情を浮かべて出てきますよ!それにどこと無く漂ってくる甘い香りは何なんですか!?」
「潮さん、落ち着いて!気持ちはわかるけど今は堪えて!」
しかし、入渠施設の豪華さを見てしまった所で潮の膝から崩れ落ちた。ボロボロの入渠施設しかない自分達の所と比べてここには娯楽施設、病院に加えてマッサージ施設等何でも揃っている。比べようがない現実を突きつけられたのであれば仕方の無いことであった。精神的に大ダメージを受けすっかり意気消沈してしまった2人はその日の夕方、鎮守府の片隅で泣きながら干物を必死に食べていた。鳥海が励ましの声をかけたがとりつく島はなかった有様であった。
続く
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