東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅲ ~【小説版】
第4章 養老鉄道・その3
貨物列車に乗り込んだ2人であったが、終点までのんびりと座って景色を見ているわけには行かなかった。
「待ち伏せね」
「何か癪だな。うまい具合に誘導されているようだ」
2人が乗り込んだ貨物列車はサウザントリーフ王国所有の車両だったのだ。無蓋車から頭を出すとコンテナ上やら脇やらにいる兵士から精霊銃の弾丸が飛んでくる。
「列車の上で戦闘を行うのは考古学者の映画であったかしら?」
「それを言うなら、荒野の一人のレンジャーじゃないか。差し詰め俺達は列車強盗か?」
「あら、攫われた姫様を助けるのだから、私達はヒーロー側よ」
「だったら格好よく決めたいな」
「それなら先に行く。援護するわよ」
「どうせ少しサボるんだろう。年に1時間でもいいから真面目なってくれ。先陣を切る味方を遠距離攻撃で的確に決めてやるさ」
「ひどい言い草ね。私はいつも真面目よ。見てなさい」
そういうと紗江は無蓋車から飛び出す。それを見た相手は精霊銃の引き金を引いて応戦するも、紗江の小刀で弾丸を弾かれ、一気に肉薄される。そして、両腕を斬りつけ銃を使えなくする。そこまでは良かったが、最後に蹴りを入れたのが余計だった。蹴飛ばされてバランスを崩した兵士はそのまま貨物列車から転落した。転落していった様子は大治郎も見ており、その状況を危惧したが、この国の医療技術は高いと聞く。それにこの貨物列車に乗り込んでいる事は知られているので後続の列車か何かで回収されるだろう。運悪く、対向列車に撥ねられない限り死ぬことは無いだろう。
紗江が貨物のコンテナからコンテナ飛び移っていたが、当然、紗江は頭を引っ込めた。
「何で戦車が積み込まれてるのよ!しかもこっち狙ってるし!」
ご丁寧にこの貨物列車には戦車が積み込まれていたのだ。いかにも待ち伏せと言わんばかりに砲身をこちらが確実に通る位置を狙っている。射線に入った瞬間引き金を引かれるだろう。そして戦車を守るように周りに随伴兵が配置されている。戦車は随伴兵を守り、随伴兵は戦車を守る形である。
「これは流石に兄さんの出番ね。格好良く決めてよね」
大治郎が戦車の射線に入った所、案の定、戦車から砲撃が行われたが戦車から放たれた砲弾は列車のはるか後方の2箇所で爆発を起こした。高速で飛んでくる砲弾を一瞬で切り払ったためだ。
ガシュッ!
ガッキンッ!
怯んでいる随伴兵をよそに戦車に大治郎の白刃が襲い掛かる。乾いた金属音と共に、まるでみかんの皮を剥いたように戦車の装甲が外れ、中の兵士達がむき出しになる。その後、随伴歩兵と共にナイフで襲い掛かったが、大治郎のパンチで軽く倒されてしまった。
「複線だったら、線路に障害物という事で日鉄から怒られる所だったわね」
「それだったら、線路が無い方に切り落とすだけさ。そのくらいの事は紗江もできるじゃないか」
高速で飛ぶ砲弾や斬る事もさながら、中の乗員を傷つけずに壊す事はそうそう出来るものではないと思う。
貨物列車上での戦闘は移動できる足場が少なく移動が制限される上に、線路脇からの支援攻撃も加わり、過酷と思われたがそんな事は無かった。貨物列車に乗り込まれる事を想定していなかったのか沿線には部隊はまったくといって配備されていない。障害物が何もないコンテナの上での戦闘においては、精霊銃を使用してきたならいつも通り弾きつつ、ナイフを持って突撃してくる兵士に注意を払えばいい。周りからの支援が無い限り、いつも通りの戦闘となる。
パパパパパパパパパパ・・・・・・・・・・。
乾いたローター音が聞こえたので上を見上げると、小さな飛行ドローンがこちらに向かってきているのが見える。サウザント・リーフ王国軍が所有する“航空支援ドローン・カッラ=ズジョー”だ。気がつけば田園地帯を抜けてオータキの市街に差し掛かっていた。おそらくそこから飛んできたのだろう。カッラ=ズジョーは下部に精霊銃を取り付け、上空から撃つだけという非常にシンプルな攻撃方法を採用している。着弾すると爆発するタイプの精霊弾を発射する亜種もある。単純な航空支援と言えども支援には違いない。遮蔽物が何もない貨物列車の上では邪魔となる事は必須だ。適切な対処が求められる。紗江は忌々しそうな顔をしていた。
「兄さん、地上はまかしていいかしら?私はあの騒がしいのを落とすわ」
そう言って紗江は懐からお札を取り出す。紗江の持っているお札は陰陽術の力を宿したお手製の物である。陰陽術の特性である干渉能力を生かした攻撃特性を持たせている。人に触れれば切れたり、殴られたような衝撃を与える。機械に当たれば突き刺さったり、凹ましたりする事も当然できる。案の定、お札が当たったカッラ=ズジョーはその場で爆発する物、煙を吹きながら地面やサウザント・リーフ兵士が集まっている所に落下し爆発。サウザント・リーフ兵にとってはたまったものではなかった。その状態に陥り、慌てふためく兵士達を見ながら紗江はクスクス笑っていた。
続く
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