東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅲ ~【小説版】
第5章 赤きスープは火を吹くように辛い・その2
「これで市街地での戦闘はほとんど起こらないだろう」
「ほとんど?という事は全てではないのね」
「全ての兵を止める事は無理だろう。中には血の気が多い連中が多い。そういった連中は単細胞だから、すぐ襲い掛かってくるだろう。まあ、そのような連中が来たら適当にあしらってくれ」
「勝負を仕掛けてきたらその時はその時だ。それにしても中々の地位にいるようだな」
「まあ、その点はね。ところで姫さんを探しに来たのだろう?それならハーバー・カツウラという店に行くといい。今の時間帯は御宿食堂という暖簾がかかっているはずだ。そこの暁美という人物がどこに向かったか知っているはずだ」
「月崎といったな。君は今回の事件の真相を知っているのだろう」
「それはどうかな。予想はできるが確証がない部分があったりするからな。ほら、早く行ってあげな」
大勢の兵が見ている中、2人を見送った月崎は大きな溜息をついた。
「月崎主任。良いんですか?勝浦さんの所まで教えて」
「構わないさ。むしろ、そうしないと被害が増えるかもしれないからな。道にいる兵士を手当たり次第にボコボコにされてしまったら、結局、街の被害が拡大する。そしたら、攻撃を止める様に言った意味がない。・・・・・・おい、これで良いんだろう!?」
月崎は最後の一言を列車の方に向かって言った。
月崎に言われた通り、2人はハーバー・カツウラもとい御宿食堂の付近までやってきた。途中、月崎が言った血の気が多い連中に遭遇したが言われた通りに軽くあしらった。ある兵士は民家の窓に、ある兵士は民家のドアに放り込まれ、持ち出した戦車は鉄くずになった。
「ドアの修理代を請求されないかしら?」
「その時は、この国が鉄くずにした戦車を再利用してドアを作ってくれるだろうさ。それにしても少し行列が出来ているのは何故だ?」
「観光案内書によると、ハーバーカツウラもとい御宿食堂という所は、宮廷料理人だった人が開いたお店ね。昼間は大衆食堂で夜はバーを経営してるね。昼と夜で名前を変えているのね。変に割り込むと一般市民の顰蹙を買ってしまうわ。順番に並びましょう」
「それであなた達は2人がどこに行ったか私に聞きに来たのね」
細目の暁美の目がうっすらと開く。ただでは教えないという目だ。
「いいわよ教えても。ただし、私が勝ったらご飯代は50倍で払ってもらうわよ」
一触即発。店内の空気が変わった上に、暁美が提示した増額に店内が完全に静まり返った。2人が注文したカツウラタンタンメンのチャーハンセットはせいぜい900円の代物だ。それを50倍の金額にして払えというのである。そこでスープを飲んでいた紗江が丼をはげしく音を立てて机に置く。
「私達も安く見られたものね。私達は50倍程度なんかじゃないわ。兄さんに勝てたら1000倍よ1000倍!そのくらいの価値はあるわよ。あ、後、シェフのフルーツパフェを1つ」
1000倍と聞いて店内がざわつく。中には口に含んだ食べ物まで噴出す者も現れる。たかだか900円の物を負けたら1000倍にして払うという根拠のない自信はどこからくるのだろうか。
「おい!自分は戦わない気か?」
「私が出たら安くなってしまうわ。それに私は兄さんの勝利を確信しているから」
「じゃあ表に出ましょう。私の仕事場を滅茶苦茶にされるのはかなわないし、他のお客さんに迷惑だしね」
(それにしてもよくよく考えれば、私は負けても王様達の場所を教えるだけでいいのだから、ほとんどデメリットが無いのよね。自虐趣味でもあるのかあるいは素で気がついていないのかしら?)
こうして、90万円に跳ね上がったランチセットを賭けた戦いが始まるのであった。
続く
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