東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅲ ~【小説版】
第5章 赤きスープは火を吹くように辛い・その3
御宿食堂という暖簾がかけられた建物の前で睨み合う大治郎と暁美、周りにいる人や食堂にいた人達が野次馬のように外に集まってくる。紗江に至ってはわざわざ椅子を持ち出して、ジュースとパフェを用意して完全に観戦モードに入っている。
「兄さん、早く仕掛けなさいよ!包丁二刀流くらいで怯まないでしょ!」
紗江が言うように暁美は両手に包丁を持ち身構えている。右手は順手で左手は逆手で構えている。攻めるよりも大治郎の出方を窺っていると言ったほうがいいだろう。意外と慎重なのかもしれない。大治郎が一歩踏み込み袈裟斬りを行う。
ガキンッ!!
十字留め。大治郎の剣撃を受け止める。刃を受け止める位置も悪くない。
「その包丁、料理に使っているんじゃないだろうな?」
「そんな訳ないわ。これは悪漢撃退用よ」
刃を弾き、お互い距離が離れる。大治郎が精霊銃を放つが包丁で弾かれてしまう。そんな最中、暁美はどこからか瓶を取り出し投げつけてきた。地面に落ちた瓶は割れ、広範囲に炎が広がる。火炎瓶だ。
「これはまた随分と変わった物を・・・・」
火炎瓶をどこに隠し持っているかはわからないが、次から次へと火をつけて放ってくる。
(指を鳴らすような音と共に火炎瓶に火が付いている。簡単な精霊術で着火しているのか)
次から次へと放ってくる。炎以外に目や鼻を刺激する何かを感じる。何か混ざっているようだ。
「おい!この火炎瓶、何か仕込んでいるな!催涙ガスのような物を!」
「あらバレた?そうよ!ただの火炎瓶だとあなた達には、効果が薄いわ!だから混ぜてやったのよ、自然由来のスパイスをね!料理は火力が命!」
暁美が叫ぶと同時に上空から3つの火球が降ってくるのがわかった。火属性の精霊術のドライブフレアだ。手前と奥の火球が相手を動きを封じ、真ん中の火球を相手に当てるといった物である。しかし、火球の動きは直線的なため、1対1の状況では牽制の意味合いが強い。
(料理人だから火属性の魔法が合うのか?)
何はともかく、相手の攻撃力を下げなくてはならない。火球の攻撃範囲から滑るように移動し、再び斬りかかる。またも十字留めで膠着状態になる。そこからの動きが違い、刀と包丁を弾いた次の瞬間に刀の腹で暁美の左腕を叩く。
「クッ!」
暁美は苦悶の表情を浮かべて左手から包丁を落としてしまった。落ちた包丁を拾わせないように大治郎が蹴飛ばす。暁美に刀を突きつけようと動いた瞬間、何かを地面に叩きつけて粉塵があがる。ただの粉塵ではなく、火炎瓶からあがる炎と同じ刺激臭を感じる。
「催涙系の煙幕か!?」
「ふふっ。植物や動物由来の成分から抽出した特性の催涙煙幕よ。効果もお墨付きよ」
いつの間にか距離をとった暁美が得意そうに話す。むしろ、食堂経営よりも不審者撃退用として、これを売り出した方が儲かる気がするが。距離をとり、精霊銃で射撃を行うが、どこからか取り出したフライパンでカンッ、カンッと防がれてしまった。
「兄さーん。もう少しまじめにやってよ。見る限り、相手は軍人の動きよ。余り時間をかけると攻撃の有効打が限られてくるわよ」
「あら、私が軍にいた人間だってよくわかったわね」
「お店の人にあなたの事を聞いたら、簡単に教えてくれたわよ。あなたのお父さんは先代の国王時代の宮廷料理人だったのね。で、今このお店をやっていると」
どうやら紗江は大治郎が戦闘を行っている間に従業員から暁美の事を聞きだしていたようだ。
(単にストレス発散か、腕がなまっていないか確認したいかのどっちかかしら?それとも・・・・・・)
紗江は暁美の戦闘理由について考えていた。別に料理をバカにしたわけではない。タンタンメンは美味しかったし、辛すぎるというのも無かった。ただ単に王様とクラル姫について聞きたかったわけだ。ここに2人が来た事は会話からして明白だけど、果たして戦闘するまでに至る必要があるかである。主任と呼ばれていたいすみの事も知っていたので、軍のOBという事もわかるがこの戦闘については誰かから時間を稼ぐという目的で行っているのではないかと。
続く
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