東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode 5 ~【小説版】
第3章・酒呑妖精:その7
ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
銃を撃つ乾いた音が一定の間隔で響き渡る。精霊銃は弾薬がほぼ無制限であるという特徴がある。チャージ攻撃やあまりにも速い連射等をしなければ、カートリッジ内の精霊力は消費量と回復量が釣りあうため、絶え間なく撃つ事ができる。形勢はすっかり変わり、晴海の攻撃からユイが逃げ続けている。
「銃をぶっ放すなんて!外の人間は野蛮ね。どういう教育を受けているのかしら!?」
「精霊銃の扱い方は10歳になったら、学校で教わる義務教育の1つよ。魔界はどうだか知らないけど、外の世界はクリーチャーがいるから、襲われた時に使い方を知らないんじゃ、ただやられるだけだからよ!それにこれはウチの新作!たっぷりお見舞いしてあげるわ」
精霊銃は威力は実弾に劣るが、受けた時の衝撃はほぼ同じである。そのため、ユイがこの弾に当たると詠唱は妨害された挙句、地面に撃ち落されてしまう状況だ。
「もー、こうなったら」
空中で先程持っていた小瓶の蓋を開け、中身を一気に飲み始めた。
「カァーーーーッ!!来たキタきたぁーーー!!」
テンションが相当上がったらしく、空になった小瓶を晴海に向かって投げつける。
「プロテク!」
晴海が飛んできた小瓶に怯んでいる間にユイが防御系の術を貼る。この状態では、弾の威力が減ってしまい、地上に落とすのは難しくなる。
「喰らいなさい!エェェクスプロォォード!!」
「いかん!逃げろ!晴海!」
大治郎が叫ぶと同時に、晴海はその場から一目散にダッシュした。巨大な火球が地面にぶつかった途端、爆音と共に爆炎と熱風が周囲を襲った。それだけなく、サイクロンやアイシクルレインといった中級、上級精霊術を連発している。お酒が入った事でさらに詠唱に磨きがかかったのか、エクスプロードにサイクロンが混ざり、ファイアトルネードが発生するといった事が起こっている。そんな状況でも、晴海は駐車場に止まっている車を盾にする等して粘っていた。
「ちょこまかとしぶといわね。ならばこれならどう?メェテオスォーム!」
術の名前を叫ぶと、空の彼方から大量の隕石が飛んできた。もちろん、それらは全て戦闘の場となっている宿の駐車場めがけて、だ。降り注ぐ隕石が駐車場にクレーターを形成し、停めてある他の車も破壊する。大治郎達が乗ってきた車にも直撃し、空き缶を空に放り投げたような軌道を描き、地面に激突、爆発炎上した。
「あー!まだローンが残っているのに!」
「向こうでやれー!」
不知火が嘆き、大治郎が叫ぶ。隕石が降り注ぎ、もうもうと土煙が舞う中でそれを突き破るかのように電気の刃が飛び出しユイの身体を捉え、地面に叩きつけたのであった。
サンダーブレード。先程、晴海が使ったライトニングソードの強化版に位置する大技で、ミチザネにより強力な電気を纏わせる事によりさらに長い電気の刃を形成する。それを思いっきり振りかぶってたたきつける事により、前方に落雷まで発生させる物だ。
「痛いわね。本当、力馬鹿ね」
ユイが身を起こすと、土煙の中から晴海が姿を現した。流石にノーダメージとはいかなかったようで、ボロボロの状態であるが、もう一発サンダーブレードを放つ体力は残っているようで、ミチザネがバチバチと音を立てている。それを見たユイは大きく息を吐いて、
「勝負はついたわ。あなたの勝ちよ」
「え?」
「え?って。私の片側の羽がダメになったわ。これでは飛べないから、あなたの攻撃は避けられない」
よく見るとユイの右手側の羽が千切れている。出血は見られないが痛々しい様子だ。
「決着はついたようだな」
様子を見ていた大治郎達がいつの間にか近くに来ていた。
「ええ。伸びしろはまだまだあるわよ、この子。剣を教えたのはやっぱりあなた」
「一週間くらいキャンプにつきあったくらいだがな」
「そう。何をどうやって教えたかは知らないけど、いい恩師のようね」
「さて、それはどうかな?たしかに良い恩師に会えば、誰でも素晴らしい指導を受けられるさ。だけど、それを物にするかは受ける本人しだいさ。本人にそれを受け取り、活かそうとする意欲がねければ意味はないさ。晴海にはそれがあっただけさ」
ソフィアとチェリーに自慢げに話している様子を見ながら大治郎は答えた。戦ったのは晴海で、勝ったのも晴海だからだ。
「ああ・・・、私の車が・・・」
一方で炎上している車の傍らで不知火が膝をついてうなだれていた。それを見たユイは、バツが悪そうに片手を頭に添えたのであった。
第4章へ続く
【登場人物紹介・その6】
■ユイ
■種族:妖精
■性別:女性
■職業:教授
■好きな物:お酒、酒に酔う事
■嫌いな物:挨拶等の礼儀がないヒト、酒の席をぶち壊すヒト
■誕生日:4月15日
魔界にある大学で精霊術に関しての講義を行っている妖精。精霊術に関しては天賦の才能を持っており、初級から上級までほとんどの属性の精霊術を扱う事が可能。魔界の一般人としても対した要職についていない妖精族であるが、そんな妖精族の中で大学の教授職を務める彼女は要請族のエリート的な扱いを受けている。しかし、自然食品等を好む妖精族が大半を占める中、アルコール中毒を疑われるレベルでの無類の酒好きであり、大学にある彼女の研究室は研究資料よりも酒の瓶が多いと言われている程であり、授業中だろうか飛行中だろうが、四六時中お酒を口にしている。不思議な事に、彼女にお酒が入ると精霊術の詠唱が早くなったりする等の強化が見られるという。時々、素行不良の生徒を教室ごと精霊術で吹き飛ばす等、過激な一面も存在する。