東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅲ ~【小説版】
第7章 いわれなき大騒動・その4
振り下ろした刀を手甲が受け止め、動きが止まる。受け止めた時の衝撃により、カズサのマントや大治郎の服が靡く。一瞬の静寂が訪れた直後、刃を滑らせるように大治郎の刀を捌き、踏み込みと同時に掌底を突き出す。
ドンッ!
カズサを中心に音が発せられ、大治郎が後ろへと飛ばされる。
「翔波拳!」
カズサが両手の掌を突き出すと同時に青色の気弾を飛ばす。周囲に衝撃波を発し、相手を弾き飛ばす気合砲と気弾を放つ翔波拳だ。特に翔波拳は格闘技としてはポピュラーだ。格闘を戦闘の術とする者なら誰もが最初に覚えるほどだ。その影響か派生技も多く編み出されている。
「さすが王と言われるだけであるな。何か、そう、特別な流派の格闘術を扱っているようだな」
「左様。私が扱う格闘術は代々、祖先から受け継がれてきた流派。サウザント流といえばいいかな。行くぞ!」
そう叫ぶと同時にすばやく距離をつめ、正拳突きを繰り出す。その動きに大治郎は素早く身を翻し、回転させながら斬りつける。遠心力をかけたカウンター攻撃である。しかし、その動きをカズサは予見していたのようで、前方にそのまま飛び込み低い姿勢から昇炎脚を放ってくる。お互いに攻撃を繰り出せば防御という行動を繰り返しの撃ち合いが続いた。
(あのカズサという王様の動き。少し攻めという形じゃないわね)
先程から戦闘を見学している紗江はカズサの動きを注視していた。大治郎とカズサ、それぞれの攻撃の比率を表すなら大治郎が4回攻撃する間に1回攻撃の動作を行うのだ。だが、ただ4回動く間に1回しか動けていないわけではない。その間はずっと防御に徹しているのだ。
「ちょっとセレス。このままだと、一方的に押し負けてしまうぞ。あの距離での攻防だと精霊術も使えない」
「なら、どうするの?乱入でもする?私達が出た所で五分五分になるかどうかも怪しいわよ」
「こそこそしてないで出てきたらどう?」
謁見の間の脇で覗き見をしていたセレスが突然、胸倉を掴まれ引き摺りこまれる。
「見学するのは自由だけど、邪魔をする気なら私があなた達を叩き伏せるわよ」
紗江に睨まれ、2人は大人しくなった。
「いつの間にかギャラリーが増えたようだな」
「そうだな。そっちは俺の攻撃を極力防いで、こちらのスタミナ切れを狙っているようだが、生憎その手は通用しないぞ」
実際、大治郎は激しい撃ち合いでも息を全く切らしていない。
「どうやら、腕の1本や2本ではなく、足の1本までも覚悟しないといけないようだな」
「そろそろ、決着をつけるか。もうすぐ、夜になるからな。その前に済ませたいものだ」
続く
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