東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅲ ~【小説版】
第7章 いわれなき大騒動・その6
「成程、それであなた達が飛んできたわけね」
夜。サウザント・リーフ王国からイースト・ペイジングへ向かう特別列車の中でクラル姫が頷いていた。大治郎がカズサに大技の“抜切”を叩き込んだ後、タイミングを見計らったように現れ、この勝負に終始部をうったのであった。抜切を叩き込まれたカズサは身を起こす事もままならなったため、月崎とセレスに肩を貸す形となった。それもそのはず、峰ではなく刃で斬りつけられた場合、確実に上半身と下半身がサヨナラしてしまう程の破壊力を持っている。そんなボロボロの状態のカズサに対して、クラル姫は帰る事を伝えたのだ。元から時間も決まっていたらしく、3人が乗っている特別列車も手配されていた物であった。
「でも、変な話ね。カズサちゃんとは内密だけど事前に何をするかは打ち合わせておいたのに。誰かに担がれたんじゃないのかしら?」
「そうだとすると、自分達を呼び出してサウザント・リーフ王国と戦わせる事でメリットを得る人物がいたという事か」
「カズサちゃんが国王になるまでに存在していた貴族連合という組織の生き残りかしら?」
「それはないだろう。月崎やセレスの反応だと、どうやら王国の上層部に犯人がいるようだ。言ってしまえば、最初からサウザント・リーフ王国に行くことを城内の誰かに伝えておけば、大事にならずに済んだ事はたしかだ。それで物見遊山の結果はどうだったんだ?」
「物見遊山とは結構な言い方ね」
「ホフェデ、ヒャンカフウヒャクハ?」
紗江がいつの間にか手に入れていた弁当を食べながら収穫はどうだと聞いてきた。
「もちろん、収穫はあったわ。この国の医療技術は、私の国よりも発達しているの」
サウザント・リーフ王国の医療技術は、精霊術の回復系をメインに導入した先端医療が展開している。王国を牛耳っていた貴族連合が残した唯一のまともな遺産であった。回復系の精霊術はかなり高度でそれを扱う術師、そしてそれを導入した機械の開発には非常に費用が嵩む。サウザント・リーフ王国の経済が疲弊した要素の1つでもあった。
「経済支援を申し出ているから、それの見返りはきっちりもらわないと。この医療関係の技術を貰おうかしらね」
「クラル姫の頭の中では、もう組み立てができているみたいね」
「この国に広がっていた暗雲は晴れたわ。いくらでも良い方向に伸ばす事ができる。ここから先は政治の話ね。あなた達は手紙の主をどうするか考えた方がいいと思うわよ」
星空が輝く夜空の下を、三人を乗せた列車は西へ向かう。手紙の主は一体誰なのか。何のために、自分達を呼んだのか。色んな考えが浮かぶが、今はクラル姫を送る事だけを考え、視線を外に向ける。窓から見える夜空の星がいつもより綺麗に見えた。
第8章へ続く
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