東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅲ ~【小説版】
第8章 VS お姉ちゃん・その1
クラル姫がサウザント・リーフ王国に連れて行かれた騒動から一週間が経った。この一週間で桜の花が咲き、春が訪れていた。大治郎と紗江の迅速な活躍により、イースト・ペイジング王国内でクラル姫が連れ去られた事を市井の人達にほとんど知られずに済んだのであった。ただ、何故このような事態になったかまでは判明せず、月崎やセレスが言っていた事が未だ引っ掛かっていた。
「いずれわかると言われてたが、こうも手がかりが無いとな・・・」
あの後、壊滅したという貴族連合の残党の仕業という線を調べたが、その可能性は皆無に等しかった。何故ならば、すでに貴族連合のほとんどは死亡しており、ごく僅かなメンバーと家族が遥か南の流刑地へと送られたか、サウザント・リーフ国内で厳重に監視されている状態であった。
「そうそう昨日、セレスに会ってきたわ」
「あの精霊術師か。この間の一件の事でも話してくれたのかい?」
「ううん。話といえば私の陰陽術についてよ。かなり興味が有るからどういうの物か教えて欲しいってせがまれたのよ。まあ、実際に扱うのはダメだから、御札とか見せてどういうものか教えて上げたわ。ただ・・・」
「ただ?」
「途中、誰かに見られていた感じがする。いや、誰かが観ていたのよ。何か私の事を知ろうという感じの視線を感じたわ」
大治郎や紗江は、長年の戦いの経験から気配にとても敏感だ。気配を感じるだけで、それなりのレベルまでの相手なら、位置くらいは特定できる。
「おそらく、察知されるのは予測済みでわざと出てきたと思うわ」
この命知らずと思える相手はどんな人間か議論を交わしていた所、局長が客人を連れてきたと部屋に入ってきた。
「よお」
「誰かと思えば、カズサじゃないか。こっちに来てたのか」
「ああ、クラル姫に今後の我が国に対するイースト・ペイジング国からの支援について話し合ってきた所だ」
「経済支援の話よね?注意したほうがいいわよ。あの姫さん、かなりのやり手だから見返りと称して骨の髄まで搾り取られる可能性があるわ」
「ああ、それは昨日の会談で痛感したよ。先日、城に来た時とはまるっきり目つきが違ったからな」
「それで、自総研には何をしにきたんだ?愚痴を零しに来たとは思えないな」
「ああ、これを渡して欲しいと頼まれたから持ってきたのだ」
カズサが懐から出したのはやたらと綺麗な封筒であった。プリントされている物がサウザント・リーフ王国の国章であるため、親書等に使われる物だろう。封筒の中身を見た所、書類が入っており大治郎はそれに目を通した。
「何て書いてあったの?」
「見てみろ。おもしろいぞ」
「なになに・・・。・・・・・・・・・・・・・。この間はご苦労様でした。おかげで我が軍の錬度がどのくらいであるか貴重なデータがたくさん集まりました。そして、今回は国中の精鋭部隊を集めておきました。この手紙が届く頃には準備はできてま~す。ソフィア・リーフ・サウザンより。P.S.あなた達が来るまで、カズサを国に入れないように命じておきましたぁ!何よこれ!私達は何!?訓練の教官扱いかしら?」
「それに一国の国家元首でカズサ君が、自分達が行くまで国から締め出されてしまったのだ。君を国に入れなくする事ができる権限を持つのだから王族の関係者だろ?このソフィアという人物は」
「ソフィアは私の姉だ。腹違いであるが」
やっぱりそうだ。今回の騒動の首謀者はこのソフィアだ!
「隠し子とか腹違いとか今はいいわ。今回の騒ぎを起こしたのはこのソフィアってヤツに決まりね!この迷惑料とかふんだんに盛り込んだ請求書を叩きつけにいってやるわ。私達が安くないという事をしっかりと教えてあげるわ!」
そういうと請求書に金額を殴り書き、飛び出していった。
「仕方ない。カズサ君、君は行って国に入れないだろう。変に恥をかくわけには行かないから、この件が終わるまで、ここにいた方がいい。局長に行って貴賓室を開けてもらうよ」
カズサを貴賓室に残し、大治郎は紗江を追いかけていった。
続く
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