東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅳ ~【小説版】
第1章・その3
「じゃあ、私が音頭をとってあげるわ」
紗江はそう言うと、ソフィアと三ツ葉山を左右から見える位置に立ち、片手をあげる。
「それじゃあ、行くわよ。・・・・はっけよ~~い、・・・・の――」
バチンッ!!
はっけよ~~いの合図で飛び出した二人の初撃が交わる瞬間に“残った”を言おうとしたが、三ツ葉山がソフィアの目の前で、掌を勢いよく合わせた音にかき消されてしまった。SUMOU技の1つ、猫騙しである。だが、一流のRIKISHIが行う猫騙しは相手の目をつぶらせるだけの効果ではない。極限まで鍛えられた猫騙しは強烈な音波も発生させる。音波耐性が備わっていないと、ダメージも受けてしまう。紗江は若干顔をしかめ、音波の直撃を受けたソフィアは音波によるダメージによる影響で目をつぶり、耳を抑えようとしていた。しかし、その隙を三ツ葉山がついて、強力な張り手を顔面に打ち込まれ、思いっきり吹っ飛ばされてしまった。
「ブッ!!」
「どうした?顔面に一発もらっただけで鼻血ブーか」
現役のRIKISHIの張り手を顔面に喰らって、鼻血だけで済むのはこの時代の人間が昔の人間と違って、頑丈になっている事に尽きる。長い時の流れの間に人間も進化した賜物であった。もし、昔の人間が三ツ葉山の張り手を顔面に喰らった場合、頚椎骨折、良くて頭蓋骨平面陥没骨折だろう。
「ちょっとしたブービートラップに引っ掛かっただけよ」
「私の技がブービートラップ呼ばわりとは言うじゃないか。だったら、今度はしっかり打ち込んで来な。受け止めてやるさ」
鼻を拭ったソフィアが、空中からの急降下による蹴撃を放つ。攻撃は見事に当たっているが、ソフィアが地面に着地した瞬間に強烈なエルボースマッシュを叩きこまれてしまった。
「何てこった。アイツはスーパーアーマー持ちだぞ。格闘術の間合いでは厳しいんじゃないか?」
「でも、エルボースマッシュはSUMOUの技じゃないわよね」
「当たり前さ。今はSUMOUの取り組みじゃない。流派も戦い方も武器の有無等、様々な違いがある相手と戦っている。この女王さんが独自の格闘術で戦うのと同じように、自分がもっとも得意とするSUMOUを軸にして戦うだけさ。クリーチャー退治の仕事を私達、RIKISHIが請け負う事も有るけれど、その時は決まり手以外の格闘技も普通に使うわ。あんた達がSUMOUで勝負するというなら行司も呼んでSUMOU技だけで相手になるわ」
大治郎と紗江の疑問に三ツ葉山が答える。言っている事はもっともだ。自分達はRIKISHIではない上に格上の相手となる。3人は、1つの戦い方に拘って簡単に勝てるような相手ではないのだ。
「代わってやろうか?」
「嫌よ。途中で対戦相手が変更になったら、それだけで相手にボーナス賞金が渡されるのよ。一円たりとも渡すもんですか!」
相手側に自軍の兵士を参加させているだけに、賞金事情には詳しい。
「じゃあ、1つだけ助言だ。SUMOUの決まり手には相手を掴んで投げる技が多い。さっきのように迂闊に接近すると、掴まれて手痛い反撃を受けるぞ」
「ロケットのように飛んできたとしても、驚かないわよ」
その助言を聞いてから、ソフィアは精霊術とジャブの組み合わせを使用するになった。例えスーパーアーマー持ちとはいえ、ダメージを0にする事にはできない。時間はかかるが確実な方法ではある。ただ、ファイアーボール等の弾を発射するタイプの精霊術は張り手で撃ち落されていたが。そんな時、ジャブを撃とうと近づいた瞬間、
「!!」
三ツ葉山の巨体が一瞬で迫り、強烈な体当たりもといぶちかましを受けてしまう。そのまま、後方に吹っ飛ばされてしまうはずだが、ぶちかましと同時にガッチリと掴まれていた。
「ここからどうなるか。もうわかるでしょ!」
三ツ葉山はソフィアの内股に膝を入れ、太ももにソフィアの身体を乗せた後、持ち上げられて勢いよく、横に振るように投げられてしまった。両手もがっちりと抑えられていたため、受身もろくにとれなかった。胸と背中、両方から痛手を喰らってしまった。
「兄さん、勝算はあると思う?」
「相手のペースであるが一応は。一連の流れでソフィアの攻撃を受けていた時は、全てその場で身構えていた時のみだ。おそらく、攻撃中はスーパーアーマーの効果が発揮されないのだろう。その時に撃ち込めれば、という感じかな」
ソフィアの戦い方を傍から見ている2人は状況を述べる。ショートレンジ同士の戦いだか、軸とする戦法が違うだけで、戦い方ががらりと変わるのだ。
続く
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