かつて地球の暦が西暦と呼ばれていた時代に宇宙に放たれた“ボイジャー2号”は数十世紀の歳月をかけて、広大な宇宙ネットワーク文明の調査隊に発見される。その解析結果より地球に広大な宇宙ネットワーク文明の使者が降り立った。その広大な宇宙ネットワークの仲間入りを果たした地球には様々な技術が導入され、地球の人達の生活は飛躍的に向上した。しかし、繁栄と栄華の超高度文明は突如、地球に飛来した巨大隕石によって崩壊、その後の生き残った人類同士の戦争により超高度文明の技術の大半が失われてしまった。
そんな黄昏の世界から5000年程度の月日が流れた――
懸けられた賞金
自然総合研究所では春が過ぎ去り、梅雨も終わり、夏が訪れていた。もうすぐ自総研で作られている夏野菜の収穫時期だ。
あの一件・クラル姫誘拐騒動以降、ソフィアは度々、自総研に遊びに来るようになった。本人は女王の立場であるが、サウザント・リーフ王国の営業を名乗っている。遊びに来るたびにクリーチャー退治の仕事が来ていないか聞いて来るのだ。本人は、クラル姫誘拐騒動で背負った借金を自総研から仕事を請けることで、返済に充てようと言うのだ。ただ、紗江によると彼女は、サウザント・リーフ王国内で出現した強力なクリーチャーを率先して倒しているため、自総研に来てクリーチャー退治の仕事がないか聞いてくるのは、より強いクリーチャーと戦う事を目的としている節があるらしい。彼女の格闘術の腕前は確認済みのため、仕事があるなら彼女にも手伝ってもらうのは吝かではないという事になっている。
「やっほー!元気してる?」
あたかもここの社員であるようなフレンドリーな挨拶でソフィアが2人の仕事場に入ってくる。
「よく来るな。そっちは暇なのか?」
「そうでもないのよ。暁美ちゃんがクラル国でバーを開きたいと言っていたから、その場所を探したりしてたわ」
「暁美って御宿食堂の所でしょ。独り立ちするのね」
「そう。そして今日はあなた達に仕事を持ってきたわ。じゃーーん!」
ソフィアが楽しそうに封筒を取り出し大治郎に渡す。
「春の一件の請求金額を全部払っていないのに、仕事の依頼とは随分お気楽だな」
「違うわよ。いいから見てみてよ」
ソフィアから渡された封筒を見てみると隅に刻印があった。東と雲の文字がかかれた特徴的なマークは、世界でも5本の指に入る程の超大手企業である東雲財閥の物であった。
「東雲財閥ね。たしか以前にもここからの依頼を受けた事があるけど、ソフィアを経由してくるのは何か変ね」
「何々。“いつも東雲グループのご利用ありがとうございます。この度は誠に勝手ながら明日にイースト・ペイジング王国で行われる、東雲グループによる夏の一大イベントにおきまして、大治郎様に100億円、紗江様に90億円、ソフィア様に50億円の賞金を懸けさせていただきました。ソフィア様には開催日前日までお二人にお知らせしないようにお願いしたためでございます。大変、恐縮でございますが、詳細なイベントの内容については、別紙に記載されております所定の箇所でご説明させて頂く事をご了承いただきますようよろしくお願いします。敬具”・・・・・・はい?」
「そういう事よ。あなた達2人と私は明日は賞金首になったのよ」
「一大イベントってどんな物になるんだ?局長はこれを知っていたから、明日は空けておけと以前から言っていたのか。局長に話が言っているとすれば、クラル姫の耳にも入っているはずだな」
「それにしても何で私が兄さんより安いのかしら?納得がいかないわ」
「やれやれ。断る訳にはいかなさそうだな。しかしどうしてこんな事に巻き込まれるのか」
翌日、三人は指定された箇所へ出発した。
東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅳ ~【小説版】
【今回の主人公】
●菊川 大治郎
自然総合研究所(通称:自総研)の何でも屋。精霊術や刀以外に素手、コアな武器まで何でも扱う事ができる。ある日突然、自分達に懸けられた賞金100億円という事態に対して、真相を究明するためクラル国を駆ける。
●菊川 紗江
兄である大治郎と同じく自総研の何でも屋。寝付きがとても良く、一度寝たら中々起きない。自分に懸けられた賞金が大治郎よりも低い事に憤慨し、真相の究明よりもそちらの方を気にしている。
●ソフィア・リーフ・サウザン
この間のクラル姫誘拐騒動を引き起こした人。その結果、紗江から請求書を突きつけられ、多大な借金を背負うハメとなった。それから度々、自総研を出入りするようになり、懸賞金が懸けられた事を2人の所に伝えに来た。
続く
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