東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅲ ~【小説版】
第8章 VS お姉ちゃん・その7
「も、もういいわ。私の負けよ。肩がハズれそう・・・」
紗江に関節技を完全に決められ、今にも肩がハズれんばかりのソフィアから降参の言葉が出てきた。
「何よ?もう終わりなの。意気揚々としてかかってきたのに、このぐらい抜けてみなさいよ。そもそも、私達を訓練目的に使おうという魂胆がダメなのよ」
ソフィアにかけていた関節技は解いたが、そのままソフィアに座りながら紗江がぼやいた。
「で、何分くらいもったのかしら?」
「15分だ」
「私と兄さんが交互に攻撃してこのくらい?まあ、いい方だとは思うわよ。二人同時に攻撃していたら5分もつかどうかだろうし・・・。それなら―――」
紗江は取り出した請求書に何やら書き込んだ。
「それじゃあ、今回の私達への依頼料金はこれね。きっちり払ってもらうわよ」
突きつけられた請求書の金額を見てソフィアは目を丸くした。ソフィアは多大な額の借金を背負った。
――――数日後――――
サウザント・リーフ王国にあるとある桜の名所。
桜の花も完全に咲き、冬の抑圧から解き放たれた世界から活気溢れる声が響いている。
「ここの桜もそろそろ散り始めるわね」
「そりゃあ、自総研がある新高崎よりも、ここは南にあるから仕方ないじゃない」
ソフィア一行から花見宴会に誘われた紗江が桜の木を見上げて呟いた。
「しかし、いいのかしら?影姫から女王になった身分の人がこんな所でお酒を飲んでて」
「いいのよ。女王になっても私のやる事は変わらないわ。書類や演説は、カズサの得意分野なんだから全部任せているわ」
「それで今日の宴会にカズサはいないのね。それであなたは何をやるのかしら?」
「外回りよ、外回り。至極簡単に言えば営業よ。ぶっ潰した貴族連合の所為でこの国は極端に資産が不足しているの」
「営業?まさか、自総研に変な物を売りつけに来るんじゃないでしょうね?そんな事をしたら出入り禁止にするわよ」
「まさか。自総研なら大抵の物は揃っているんだからそういう物は必要ないでしょ。この間、カズサがクラル国に経済支援を取り付けたけど、このお金は最終的に返さないといけないお金だからどんどん稼がないといけないのよ」
「じゃあ、来る時に市川国境で大きな工事現場が見えたのもそれの一環かしら?」
「そう。精霊術を用いた医療技術はクラル国よりも発達しているのよ。これを利用しない手はないわ。まずは、国境付近に作って国内とクラル国からの患者から治療費用を得るのよ。反応によってクラル国内に作るのもいいわね」
「商魂たくましいというか何と言うか」
「私はこの国を変えるわ。腐った大木を根こそぎ取り払ったのだから、いろんな事をやって立派に成長させるのよ」
「お酒の御代わりの用意が出来ましたよ~。今度は富士桜高原ですよ~」
勝浦が簡易ビールサーバーに新しいビール缶を取り付けていた。
「さあ、折角だからジャンジャン呑みましょう。宴会は呑んでナンボなんだから」
春。それは新たな活動が始まる季節でもある。暗雲が取り除かれたこの国には新しい風が吹き始めていた。
【登場人物紹介・その6】
・カズサ・リーフ・サウザン
・性別:男性
・誕生日:9月19日
サウザント・リーフ王国の現国王。今回のクラル姫誘拐騒動においては一番の被害者かもしれない。格闘術のスタイルは防御重視の方である。しかし、戦闘よりも政治学や経済学等の学術の方が得意なため、日々の業務はそちらの方で忙しいようだ。
腹違いの姉、ソフィアがいる。
【登場人物紹介・その7】
・ソフィア・リーフ・サウザン
・性別:女性
・誕生日:7月20日
サウザント・リーフ王国の姫。カズサの腹違いの姉。今回のクラル姫誘拐騒動を引き起こした張本人。また、腐敗政治を起こしていた“貴族連合”を壊滅させたのも彼女である。じっとしているのは苦手で出歩いている事が多く、住居である城には夜くらいしかいない。サウザント流格闘術は既にマスターレベルであり、カズサとの実力は比べ物にならない。軍の中でも互角に戦えるのはセレスくらいである。
今回の騒動で請求された金額は出世払いという事でお願いしたようだが、国における№2の立場にいるのに出世も何もないと思う。
東都幻想物語・EPⅢ 終
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