東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅳ ~【小説版】
第3章・5尾のお巡り:その2
「お久しぶりですね。まあ、あなたは覚えていないと思いますが。菊川紗江さん」
「知り合いか?」
「よしてよ兄さん。私に妖狐の知り合いはいないわ」
妖狐。かつて地球上に多く存在していた魔族の一種族。自然との調和を好む種族もいれば、人間を糧として襲う種族も存在していた。超高度文明以前から忘れ去れていた精霊術に関する技術を残していたのも魔族の一種族だったという文献も確認されている。だが、超高度文明崩壊前は地球の各地で多くの魔族を見かけたが、崩壊後はほとんどの魔族が姿を消した。一説では、崩壊後に起きた環境変化に耐えられなかったり、戦火に巻き込まれたと言われているが明確な根拠はなく、未だ謎とされている。今回のようにフラッと現れる事があるため、どこかに隠れ住んでいるのではないかという話もあるが、推測の域を出ていないのあった。
「やっぱり覚えていませんか。私は近江 不知火(オウミ シラヌイ)。以後、お見知りおきを」
「残念だけど、何の事だかさっぱりだわ。他の人と間違えてない?」
「いいえ。残念ですが“アレ”はあなたでしたよ。私の知り合いは皆、あなたの事をご存知です。いえ、あなたの事を忘れようとも忘れられませんから」
「あまり調子の良いことを言っていると、冬用のマフのために尻尾の毛を毟り取るわよ」
台詞と共に不知火が妖気を纏う。あからさまな敵意だ。
「ねえ?紗江は何かやらかしたの?」
「知るもんか。ただ、自分が知らない所で何かをしでかしていたとしてもおかしくはない」
紗江の自由奔放な行動は、時々トラブルを起こす事がある。ただ、そういった事が発生した場合は局長やら大治郎から、できるだけ自分で解決するようにと日々言われている。紗江と対峙している妖狐・不知火の様子からして、紗江が覚えていない所で何かをやらかしたのはたしかのようだ。
「獲物は十手?あなたの職業は警察関係かしら?私を捕まえるつもり?」
「そうですね。あなたに色々と文句を言いたい人は大勢います。連れて行って直に聞かせるのもいいでしょう」
「そう?じゃあ、そうしたいのなら尻尾の一本や二本、覚悟してもらいましょうか!」
続く
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