東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅳ ~【小説版】
第3章・5尾のお巡り:その4
至極色のオーラを広げた紗江の姿は、まわりに強烈な絶望感を与えていた。ヒーローが追い詰められた時に秘められた力を解放するような感じとは真逆である。魔神が真の力を出し、ヒーローを追い詰め、絶望の底に叩き落すのまさにそれであった。この現場を一般参加の人も遠くから見ることが出来るのだが、紗江の異様な姿を目の当たりした人の多くが凍りついたように釘つけになった。底知れぬ恐怖で足が動かないと言った方が正しいかもしれない。その他にはスッと逃げ出す者、腰を抜かす者もいた。
「さて、どのように始末をつけてあげましょうか?何かお望みのやられ方でもある?」
相手がどうあがいても自分には勝てないという余裕からでる挑発である。干渉能力における事象操作はそう簡単には打ち破れない。ましてや、事象操作が行われている事にすら気がつかないだろう。睨みをきかす不知火に対して、紗江は不敵な笑みを浮かべた。
「どのような相手でも退くわけにはいかない!敵前逃亡は士道不覚悟!」
「あらあら、逃げれば酷い目に遭わないのに。お巡りさんは可哀想ね」
十手を構えて、紗江に突撃するも炎はかき消され、十手や蹴撃、そして精霊術までもが悉く、不発に終わると事態に陥ってしまった。
「陰陽術って怖いわね。簡単にあのように機能不全に陥らされるなんて。そもそも陰陽術って何なの?精霊術の対局に位置するものじゃないの?」
「精霊術とはまったく別の物だ。紗江曰く、アビス、深淵の力だそうだ。なんでも、光も闇も、神も悪魔も、時間も次元も最後に行き着く場所であると同時に、全てが生まれて解き放たれる場所、らしいぞ。物事の事象に干渉、ヒトの人生を不幸まみれにする事も容易だとさ」
「なにそれ、やりたい放題じゃないの」
「もちろん強力な力に対して、反動はある。制御を誤れば、たちまち精神がアビスの力に呑み込まれる。元に戻れなかったら、アビスの力を周りにまき散らす殺戮マシーンになる。紗江が普段から奔放な行動をしているのは、その方が精神に負担がかからないからだ。変に力を抑えると体に悪いようだ」
ドギュッ!!
紗江と不知火が交錯したが、非常に耳障りな音がした。得意げな顔をしている紗江の右手に不知火の左手が握られていた。
続く
PR