東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅳ ~【小説版】
第4章・火を吹く人:その3
「へへぇ、サウザント・リーフの女王様が相手か。それなら勝機はあるかもね」
「火を吹ける程度で、そう言われるとは随分と見くびられた物ね」
「そうかい?三ツ葉山にはたいそう痛い目に合わされたそうじゃないか。それを考えると、2人とあんたの実力の差は歴然。2人なら三ツ葉山はもちろん私だってあっという間にやられちまうよ」
「そんな事・・・・、百も承知よ!修羅場を超えた数は圧倒的な差があるわ!当然の事じゃない!」
「少しは頭に血が昇ったようだね。その状態で冷静な判断ができるかな!」
戦いにおいて、相手に動揺を誘う精神攻撃はわりと基本だ。ただ、言葉が通じない相手には意味はないが。しかし、一ノ橋が言う事は当たっていた。大治郎や紗江と比べて、修羅場もとい命のやりとりが発生する戦いの場数は圧倒的な差が存在している。クリーチャー退治や貴族連合を潰した経験をも霞む程の差が。
ボッ!ボッ!ボッ!
一ノ橋の口から火が放たれる。先程のブレスとは違い、火の塊が車のような速さで迫ってくる。ソフィアがはとっさにしゃがんでそれを回避すると同時にスライディングからのアッパーによる連携を叩き込んだ。
「おっと」
ソフィアが顎に向けて放ったアッパーは、後少しの所だったが両手で、受け止められてしまった。
「スライディングからのアッパーとは中々いい考えじゃないか。だけどツメが甘いんじゃないかな?」
ブオッ!
ソフィアの目の前でファイアーブレスを一ノ橋は放った。至近距離からの猛炎により、一瞬でソファの姿は炎の中に消えてしまった。真夏の暑さに加え、ファイアーブレスの熱さが加わり、周囲はさらに蒸し暑くなる。
バキッ!
派手な音と共に一ノ橋が、炎を吹き上げながら後方へ吹っ飛ぶ。消えた猛炎の中から、若干焦げた感じがする正拳を突き出したソフィアが現れた。一方、一ノ橋は呻き声をあげながら、鼻を押さえつつ悶えている。一ノ橋の鼻を押さえている手から血がボトボト流れているため、ソフィアの渾身の突きが、一ノ橋の鼻を襲ったのは明白だ。
「あれだけ偉ぶっていたくせに、一発で鼻血ブーとはね。いささか、打たれ弱いんじゃないかしら?」
三ツ葉山の張り手を喰らって、鼻血を出していた人物の発言とは思えない。
「私をぶん殴るためにわざと踏み込んだのかしら?いつまで持つかしらね、その戦い方」
相手の攻撃を受け止めて殴る。攻撃を受けつつそのまま殴る。体力勝負の戦いとなった。一ノ橋も徒手空拳の心得がある模様でソフィアの突きや蹴撃に対応している。この世界の武器を使わない武術は、全てクリーチャーに対しての対応として素手での戦い方が組み込まれているのがほとんどである。そのため、三ツ葉山が相撲がないシーズンにクリーチャー退治を行えるのだ。
続く
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