東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅳ ~【小説版】
第5章・爆裂暴走車両:その7
「反対車線から敵が追ってきたわ!」
セレスが車内から叫ぶ。いつの間にか、反対車線側にバイクや車が併走して走っている。環状国道1号全体が通行止め扱いにされているため、反対車線側から攻撃が来る事は容易に考えられる。しかし、中央分離帯の一部の柵がやたら高く設置されているため、向こう側への攻撃がやや難しくなるといった形となっていた。こちらが攻撃しにくい事をいい事に、爆弾やらハンマーやらを無造作に投げ込んでくる。後ろにいるトラックから攻撃も考えると軽トラへのダメージは、確実にそして早く増加していくだろう。
「まるで、古い記録ディスクに入ってた映像データみたいね。この物量作戦は市街での戦闘よりも多いわ」
ソフィアが言ったとおり、一気に敵が増えた。合流部から入ってくる相手の数も増え、後ろや反対車線、さらには前方からも敵が加わり、文字通り四方八方から銃撃が加えられている。
「これじゃパニック映画のワンシーンよ。このままじゃ車が持たないわ。何でもいいから連中を黙らして!」
「あいよ」
セレスの呼びかけに紗江が答える。何の躊躇もなく、反対車線の方に向けて精霊銃を発砲。その途端、反対車線側で大爆発が発生した。
「なんだ!?」
その光景を目撃した東雲グループの会長は驚嘆の声をあげる。それだけなく、軽トラの前後に展開していた敵達も視線を一斉にそちらに視線を向ける。
(いくら何でも、用意したバイクの燃料の性質を考えても、あんな戦車砲を打ち込んだような派手な爆発は起こらないはずだ。一体全体何を撃ち込んだんだ?先程、揉めていた理由はコレか?)
東雲グループ会長が、紗江が放った弾丸について考えているうちに、呆気にとられていた前方のバイカー達を大治郎が蹴散らし、包囲を脱していた。
「紗江、あんな爆発が起こって撃たれたバイクに乗っていた人は本当に無事なのか?」
「大丈夫よ。あの弾を撃って起こった事象については、人が巻き込まれても死なないようにしているわ。怪我はすると思うけどね」
「あれで死なないというのはにわかに信じがたいが・・・」
実際、バイクの爆発で吹っ飛ばされて行った人を目撃しているわけだ。あれで死なないというのはある意味地獄なのかもしれない。
「何をする気?前方に敵はいないわよ!」
「セレス。これで中央分離帯が薄い所を破壊する。そこから反対車線に移るんだ!あのトラックをどうにかするにも一度、距離を取ろう」
遠くにある中央分離帯にむけて、大治郎がロケットランチャーを放つ。アクセルを吹かし、ハンドルをきり、破壊した中央分離帯部分をドリフトで滑り込んだ。一方で、東雲グループ会長を乗せたピックアップトラックは、破壊された中央分離帯よりもはるか手前で止まっていた。
(ドリフトで反対車線に行く時に、明らかに私の眉間を狙ってきた。精霊弾はフロントガラスに施したコーティングで弾かれたが、年甲斐もなくビビッてしまった)
運転席で大きく溜息をついた後、後部窓から荷台を除いてみると、月島が前のめりで倒れていた。
「会長~。急ブレーキーをする時は一言言ってください」
そう聞いて、会長は口元を少し緩ませた。
続く
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