この小説は艦隊これくしょん~艦これ~の二次創作小説です。佐潟2174艦隊・オンボロ鎮守府:第二章・その2
午前3時前。ほとんどの人が寝ているそんな時間だ。しかし、漁師の朝は早い。昼間はまったく人気がない佐潟港に慌しい空気が流れている。
「ふわあああぁぁぁぁ~~。とても眠いです。」
潮が大欠伸をしながらつぶやいた。艦娘といえども夜番以外は寝ている時間である。しかし、漁船に灯りがつき、漁師の人達が出港の準備を行っている。磯波と潮は艤装をつけ、すぐ近くの所の海面で出港待機中である。近海警備も兼ねた漁船警護任務が、佐潟鎮守府の始めての仕事となるのだ。それは同時にこの鎮守府が正式に稼動する事も意味していた。
「あ、あれ?」
漁船の付近に斉藤の姿を見つけたのだ。
「提督、一体どうしたんですか?鎮守府にいるはずでは?」
「私だけじゃないぞ。今回は明石も同行する。何だってこの鎮守府が稼動して初めての仕事だ。しっかりと記録を残しておく必要がある。俺達のような弱小艦隊には時としてこのような映像記録が武器となる事があるんだ」
斉藤の手には片手サイズのビデオカメラが握られていた。一体、どこで仕入れたのだろうか。斉藤の私物というわけではなさそうだ。
「提督さん。本当に行くのかね?漁船は結構揺れるばい。早起きに慣れてないと酔うべよ」
「鮫島さん、私も軍人の端くれ。どうなろうと行かなければならない時があるんですよ」
「そうか~?なら、もう何も言わないべ。じゃあ出港するべよ」
夜の帳がまだ明けない時間に、佐潟港の漁船団が外海に向かって出港した。
「提督。カメラの調子はどうですか?」
明石が撮影している斉藤に声をかける。出港してからというもの斉藤はずっとカメラで撮っている。
「・・・・・・んー、暗くてあんまりよく映っていないんだよね」
「高感度モードはどうですか?」
「何とかって感じかな?明るさが足りないのが決定的だな」
灯りといえば漁船の灯りくらいな物である。探照灯があれば、もっと見やすくなるが、現在の鎮守府にはそのような装備は入っていない。しばらく、撮影していてもぼんやりとカメラに映るだけであった。
ごち網漁を開始する所まで到着すると共に、空が少しずつ明るくなってきた。斉藤が持っているビデオカメラでも艦娘達が映る明るさなので、斉藤はずっとカメラを回していた。深海棲艦とはエンカウントおらず、今の所、漁は順調である。大淀と船長達により網を海に投げ入れている所もしっかりとカメラに収められた。そして、船を動かした矢先であった。
「明石、済まないがカメラを代わってくれないか?」
「どうしたんですか提督?ちょっと顔色が悪く見えますね」
「船長ー!吐くとしたらやっぱ海かい?」
船酔いである。しかし、船に乗りながら撮影をすると酔うというのは比較的ありえる話である。ヘリコプターに乗っている時も酔いやすいというのも度々聞く話だ。
「何だ提督さん?海軍の人なのに船酔いか?」
「こう見えてもつい最近まで、東京でのサラリーマン生活だったからな」
船の一角に座り、生あくびをする。斉藤の異変に磯波と潮も気がついたらしく、通信が入ってきたが、船酔いである事を知った途端に回答に困った反応になったのは明白であった。
「じゃあ、俺吐くから!」
意気揚々と宣言して御手洗いに駆け込む斉藤。戦線離脱である。その後、魚の水揚げまで船の一角でダウンする事となった。なお、今回の漁においては深海棲艦に遭遇する事も無く、円満に終了した。
続く
PR