東都幻想物語~ Touto Genso Story Episode Ⅲ ~【小説版】
第3章 新米隊員の悲劇・その1
印旛の穀物地帯の東にマウンテン・ナリとサウザント・リーフ王国の主要都市の一つであるサウザントシティを結ぶ酒々井街道がある。その街道は主にマウンテン・ナリにある寺院への参拝客が通る所でもあるが、この街道でも軍の警備部隊が配備されている。この両側は森となっているため、クリーチャーが度々出現し、参拝客が襲われる事があるためだ。
「印旛の部隊がやられたとの連絡が入った!自総研の2人がやってくるぞ!」
「クリーチャー用の装備で対抗できるのか!?いや、俺達はクリーチャーしか相手にした事しかないぞ!」
「聞いていた任務と違うのではないか!」
「部隊の先遣隊が接触!状況はあっさりやられたそうだ!」
酒々井街道を警備するサウザント・リーフ王国の警備部隊は慌しい雰囲気に包まれていた。
「冗談でしょ?何たって、また・・・・・・」
慌しい中、配属一週間ばかりの新人隊員・新米 三咲(あらこめ みさき)は途方に暮れていた。
「ここも大した事ないわね」
叩き伏せた部隊を見て紗江がつぶやいた。実際問題、サウザント・リーフ王国の軍隊の錬度は低く、はっきり言って2人の相手ではなかった。先程、一戦交えた逆井くらいの錬度があれば、戦う事はできるが、勝敗はまた別の話である。
「この国で起きたゴタゴタは、ありとあらゆる所に影響を及ぼしているようだ。現に、装備の更新や機械のメンテナンスに必要な部品が行き届いていないのがわかる」
大治郎が今まで戦った感想を述べる。戦車の中にはガムテープを貼った物もあったからだ。
「それにしても、精霊術師が配備されていないのが気になるな。ただ単に人材不足で部隊に配備されていないのか?」
クリーチャー退治の名目で、どの国も軍を設置している。刃物や戦車等の物理主体の攻撃がもっぱらであるが、クリーチャーの中には物理攻撃が効きにくい個体も存在し、その場合は精霊術が有効な場合が多い。そのため、各部隊に最低1人は精霊術師が配属されている。しかし、今まで戦ってきた部隊には1人も配属されておらず、もし、物理攻撃に強いクリーチャーが出現したら苦戦を強いられのは必死だ。
そんなこんなで2人は酒々井街道にある川を超える橋までやってきた。部隊が待ち伏せしているのが見てわかる。
「よし、次が見えたぞ。突破するぞ」
通る所が限られる橋の上で戦車や歩兵が待ち構えている。しかもご丁寧に土嚢まで積み上げている。防衛拠点にしているのは明白だ。案の定、射程圏内に入った所、戦車が、歩兵が、砲弾や銃弾を浴びせてくる。刀で弾丸を弾いていると、後方から兵士達の叫び声が聞こえてくる。どうやら道の脇の茂みに潜んで待機していたようだ。とり回しが聞きやすいナイフを持っている。砲弾や精霊銃の銃弾には拡張機能として敵味方の識別機能がある。使用するには、熟練した精霊術師による調整が必要になるが、この現場で挟み撃ちで攻撃してくるのだから、ここの部隊には識別弾が支給されているのだろう。
「紗江!後ろを頼む」
「まかせて、兄さん。手っ取り早く片付けるのが一番よ」
紗江は懐から、大き目の札を取り出し地面に叩きつける。
「呪爪連波陣!!」
技名を叫ぶと共に、紗江の足元から小さい魔方陣が現れる。その魔方陣は赤紫色の光の柱を出しながら三方向に別れ、挟み撃ちにしようとした兵士達を襲う。橋という狭い場所のため、満遍なく広がった赤紫色の光の柱に巻き込まれた兵士達は弾き飛ばされ、叫び声を上げながら川にドボン、ドボンと派手な水しぶきを上げながら落ちていった。その光景を目の当たりにした待ち伏せ部隊の動きが止まる。銃弾や砲弾を刀一本で防ぎ、たった一撃で奇襲部隊を吹っ飛ばしたのを見れば余程の手練でもない限り、怯んでしまうだろう。その一瞬の隙の内に大治郎によって戦車は破壊され、兵士達は皆、川に落とされてしまった。
続く
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