この小説は艦隊これくしょん~艦これ~の二次創作小説です。佐潟2174艦隊・オンボロ鎮守府:第三章・その5
「全員揃ったな。では、改めて紹介しよう。新しいぎせ…食客となった軽巡大井だ」
「ちょっと待って。アンタ、今、犠牲者と言いかけたでしょ。どういう意味よ!」
「と、まあこんな感じでとても短気で、知っているかもしれないが重度な妄想癖も持っている。まあ、こんなだが皆で仲良くやってもらいたい」
「提督の事を平然とアンタ呼ばわりする時点でかなりの問題児だと思います」
「うるっさいわね」
明石の意見に反応し、癇癪を起こした大井が叫ぶ。
「お、大井さん。これが佐潟2174艦隊の部隊章です。後で服に付けておいてください」
「何よ。このデザインは初期のままじゃない」
大井が受け取った部隊章は2174の文字の上に波と錨のマークが描かれていた。艦娘の鎮守府の部隊章は提督が1回だけ好きなデザインに変更するができる。それによって各鎮守府毎に違いが出ているのだ。猫好きな提督の所は猫がプリントされた部隊章等がいい例である。
「この部隊は事情が事情だ。ある程度戦力を整えないとデザインを変える余裕もないさ。さて、この後だが、今日はもう出撃とかは無しだ。だが、大井にはある任務を行ってもらう必要がある」
「ある任務ですって・・・・・・?」
「そう、それは――」
大井は一人、部屋の掃除をしていた。すっかり日は落ちてしまったため、部屋の明かりは蝋燭であった。不幸にも、大井が寝泊りする部屋の電球がなかったのであった。
「何よ何よ何よ何よ何よ何なのよ!ここは!どこかの牢獄?刑務所?こんな所に来るなら解体された方が何百倍もマシよ!今日はもう終わり!暗くてやってられないわ!」
掃除道具を放り投げ、床に大の字で転がる。前の鎮守府で北上が帰ってこない日から、今までずっと落ち着かない日々が続いていた。
「北上さん・・・・・・」
大井は、もう帰ってこない同僚の名前を呟いた。この大井にとって北上は命だった。北上がいない日なんて一度も考えていなかった。毎日毎日2人で窮地を乗り越え、他愛の無い話を弾ませきた。それがずっと続くと思っていた。ふと、窓の外の景色が目に入った。立て付けが悪い窓を何とか開け外を見渡す、いつもより星が綺麗に見えた。
「北上さん、なんで私は1人なの?」
その答えを言ってくれる人はいない。頬杖をついて大きなため息をつく。ふと顔を上げると、なんとなく北上に似ている形をしている星の配置が目についた。
「北・・・上・・・・・・さん?」
どこからともなく北上の声が聴こえた気がした。しかし、この確証もまったくない幻聴ですら大井に火をつけるのは簡単な事であった。
「き、北上さん!?声が聴こえたわ!そ、そこにいるのね!?」
夜空に向って大井が叫ぶ。傍から見れば危ない人だ。
「うん、うん。聞こえるわ。よかったもっと声を聴かせて!」
どうやら、この大井にしか見えない聞こえない北上がいるようだ。大井の脳はアドレナリンを大量に発生させた。大井の独り言もとい自分の世界に陶酔している状態では周りが完全に見えなくなる。喜びを爆発させ、身を捩る。どうやら、励ましの言葉をかけられた様だ。
「北上さん。私、頑張れるわ」
喜びという感情でいっぱいになった大井であったが、すぐに空っぽになった。さっきまで夜空に輝いていた北上に似た星の配置が見えなくなっていたのだ。
「ああ、そんな北上さんどこに行ったの!待って!私を置いていかないで、1人にしないで!キャアアアアアア!」
グシャ。
大井は2階から落ちた。
続く
PR