この小説は艦隊これくしょん~艦これ~の二次創作小説です。佐潟2174艦隊・オンボロ鎮守府:第三章・その4
数日後、菊地の鎮守府より機材を載せた車が向うという連絡があったため、斉藤は律儀に外で待っていた。今日の鎮守府の運営は、漁の護衛と近海の警備であり、現在は近海の警備を行っていた。先程まで、深海棲艦との戦闘があったが、武装や訓練の成果が出たのか今日は特に苦も無く終わる事が出来た。しかし、肝心の車は朝に連絡があったきり、夕方になるが一向にやってこない。このままだと日が暮れてしまうだろう。
カラッカラに乾燥させた干物をかじりながら、味に少しアクセントをつけるべきだと結論を出した所で車がようやくやってきた。
「斉藤、お前こんな所で何をしているんだ」
「見ての通りだ。干物を食べながらお前が来るのを待っていたんだ。結構、時間がかかったな」
「ああ、それには理由があるんだ。むくれてないで出て来い」
菊地がそう言うと、車から一人の女性が降りてくる。セミロングの茶色の髪をし、腰にポケットがついた半袖のライムグリーンのセーラー服を着ている。見た目の雰囲気で一般市民ではなく艦娘である事がわかる。
「遅れた理由は、この艦娘が関係しているのか?」
「まあな。コイツは球磨型軽巡洋艦の4番艦の大井だ」
大井と呼ばれた艦娘は斉藤達の会話等気にも留めずに周りの様子を見ている。ただ、表情は苦虫を噛み潰したような状態になっている。
「斉藤、お前に頼みがある。コイツの面倒を見てやってくれ」
それを聞いて斉藤は目を丸くした。一般的に艦娘は、工廠においてある建造マシーンにより誕生する。ただ、建造マシーンからどの艦娘が建造されるかはランダムであるため、欲しい種類の艦娘を建造するには多くの資材を使い、何度もチャレンジするしかないのである。今回のような、他の鎮守府に所属していた艦娘が別の鎮守府に移る事は普通では起こらない事である。
「ちょっとまってここは鎮守府なの!?」
今まで仏頂面で話を聞いていた大井が突如、大声を張り上げた。
「冗談でしょ。廃屋と思しき建物が鎮守府だというの!?しかも、何かの宗教みたいに、その建物のそこいらじゅうに魚が干してあるし」
斉藤と菊地が顔を見合わせ、
「なあ、どうしてこの大井は自分の所に連れてきたんだい?」
「こいつ、前の鎮守府で揉め事を起こしてな。僚艦の北上が沈んでしまった事に腹を立て、作戦が悪いとかを始めとする暴言を吐いたあげく、その鎮守府の提督を殴り飛ばすという事態に発展したんだ。艦娘がそんな事をしてみろ。即刻、解体だ。普通の軍人だったら軍法会議にかけられて銃殺刑にされるようなものだ。ただ、その話をたまたま自分が聞きつけてな。勿体無いから、この大井を扱えそうな所を見つかるまで預かる事にしたんだ。そうしたら、斉藤の所を思い出したという所さ」
「自分の所は駆け込み鎮守府じゃないんだぞ」
「まあそう言うな。15.5cm三連装砲と61cm四連装魚雷もついているから」
「何よ!私を通信販売のお買い得商品みたいな扱いをして!ああ、北上さん!私はどうすればいいの?」
「始まったか」
「始まったって、何が?」
「この大井は北上の事を考えると自分の世界にトリップしてしまうのだ。他の大井もこうなのかと調べたが、基本的に大井と北上は仲が良いというのはわかったが、ここまでのレベルは異常だ。筋金入りの問題児と思ってもいい」
見ていると、“北上さん、北上さん”と壊れたレコーダーのようにつぶやきだした。何かぶつくさ独り言を言っていると思ったら突然、身悶えし始める。もはや変態の域だ。
「しばらくしたら元に戻るから、それまで放っておけばよい。さあ、早くこの機材をセットしてしまおう」
斉藤と菊地は機材を抱えて鎮守府に入っていった。もちろん、大井は港に放置された。
続く
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